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2016年4月29日 (金)

水の電解に必要な電圧が1.23Vであることを検証する (3)

水の電解に必要な電圧が1.23Vであることを検証する (2)では水の電気分解(正確に書くと鉄電極によるテトラトリタ炭酸ナトリウム水溶液の電解)は1.6Vで起きることは確実なようですが、最低何V必要なのかはよくわかりません。

そこで今回は実験方法を電流を徐々に小さくしながら電圧を測定するという方法から一定電流を流しながら電圧の変化を見るという方法に変えてみました。このときの等価回路を次のように仮定します。
Eqcm

R1は電解液の電気抵抗ですが、テトラトリタ炭酸ナトリウムの濃い水溶液を使っているためこれは小さく数百Ωと思われます(水の電解に必要な電圧が1.23Vであることを検証する (1)にある最後のグラフ右側の曲線の傾きが抵抗値になります)

D1、D4が

  2H2O => O2 + 4H+ + 4e-

の反応に要する電圧、D2、D3が

  2H2O => H2 + 2OH- + 2e-

の反応に要する電圧を、C1、C2が電気二重層を示しています。

この回路ではまず電気二重層(コンデンサ)の充電が行われ、電流は一定なのでここでは時間に比例して電極間電圧が上がっていくはずです。電圧が電解の始まる電圧に達すると流れている電流の一部が電解電流となりコンデンサの充電に使われる電流は減っていくので電圧の上がり方が鈍くなるはずです。電圧が電解電圧+流れている電流に相当する過電圧に等しくなると電流はすべて電解電流ということになるので電圧は一定になるはずです。

つまり時間経過に対する電極間電圧はこんなグラフになるはずです。
Est

電解電圧から電解電圧+過電圧になるまでのCのところは簡略化してあります。

もしAからCへ移り変わるところの電圧E1が測定できればそれが水の電気分解に必要な電圧ということになります。

=======

2.8μA(電流密度でいうと10μA/cm^2程度です)の定電流源を使って実験した結果です。
電解液は水道水にテトラトリタ炭酸ナトリウムを沈殿ができるくらいまで溶かしたもの、電力は陽極、陰極ともに鉄です。
Exp1

一回測定したあと電極の極性を逆にしてもう一回測定しています。

確かに直線的に電圧が上昇していく部分と電圧が一定になってしまった部分があります。ただその間がどこなのかよくわかりませんので拡大してみます。

一回目の実験結果の拡大図
Exp2

電圧が直線的に変化しなくなりはじめるところが水の電気分解に必要な電圧だとすると1.2V程度のように思えます(過電圧の電圧電流特性を考えるともう少し低い電圧)

二回目の実験結果の拡大図
Exp3

こちらは1.3V強のようです。

水の電気分解に必要な電圧は1.23Vとされますから、だんだん“正解”に近づいてきたようです。

測定回路(Rxが“電気分解装置”です)
Testcm3current

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参考

  渡辺正・金村聖志・増田秀樹・渡辺正義 「基礎化学コース 電気化学」 丸善、2001
  【ナレッジ】酸素化電圧について教えてください
  「鈴木智恵子・居林尚子 - 水の電気分解における電極と電解質の関係についての再検討
  谷川直也・森勇樹 - 水の電気分解の実験条件に関する再提案
  田中貴金属 産業用製品 - 様々な場面で使用される不溶性電極
  日本化学会編 「教育現場からの化学Q&A」 丸善、2002
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化学のはてな? - 221 純水の電気分解
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CiNii - 純水の電気分解実験(私の工夫)
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