氷点下のサーミスタの特性と測温抵抗体(白金薄膜抵抗)による温度測定
「-75℃でのサーミスタ抵抗値を測ったら1.8MΩだった」 の後測温抵抗体とサーミスタをドライアイスといっしょに断熱容器に入れ、そのまま放置して-76℃程度から室温になるまでの経過を測定してみました。
測温抵抗体は三つ使ったのですが、そのうちの一つは1/3 DINであり校正なしで使っても拡張不確かさ(k=2)は-80℃で±0.28℃程度(±0.24/√3*2)と思われます(実際には氷点校正済み)したがって以下これが正しい温度を示しているとしてグラフを作ってあります。
(「(白金)測温抵抗体(白金薄膜抵抗)の使い方 - 基礎編というか入門編というか....」)
まず経過時間に対する測温抵抗体の示す温度とサーミスタの抵抗値のグラフです。
(横軸は経過時間で単位は秒です)
サーミスタの抵抗値が2MΩ近くから10kΩ台まで変化していますが、これについては後回しにして経過時間に対する温度変化に注目します。
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最初温度センサーの上にドライアイスをおいていたのですが、これを途中でドライアイス+センサー+ドライアイスのサンドイッチ状にして“縦置き”にしました。これがB.のところです。
温度ができるだけ低く保たれるようにと思ってそうしたのですが、グラフを見ると“裏目”に出ていることがわかります。
つまりA.のところがセンサーの上にドライアイスをおいた状態でここは温度が-76℃程度になっています。ただ小さな温度変化がありますし、センサーによって温度の測定結果が異なっています。残り二つのセンサーはClass Bなので1/3 DINよりずっと不確かさは大きいのですが、それでも説明できないほどセンサー間の温度差があります。おそらく温度ムラが発生しているものと思われます。
できるだけ温度を低くしたいということならドライアイスと密着ということでもいいのでしょうが、時間的空間的に温度を一定に保つという目的だとあんまりいい方法ではなさそうです。またドライアイスの昇華する温度で温度センサーを校正しようとするような場合は必ずドライアイスに接触しないようにすべきと思われます。昇華する温度=ドライアイスの1気圧の二酸化炭素の境界面の温度、であり、ドライアイスとセンサーなどを直接接触させてしまうと温度が一定に保たれるはずの境界面がなくなってしまいます。
C.のところは何が起きたかよくわかりません。ドライアイスが昇華して形が変わったか振動でドライアイスとセンサーの位置関係が変化したのではないかと思いますが。
D.のところで急激に温度が上昇します。ここでドライアイスが昇華しつくしたようにも見えますが、後の温度変化を見ていると単にセンサーとドライアイスの接触面がなくなったということのようにも見えます。
D.以後温度が直線的に上昇して行きますが、もしドライアイスがなくなってしまっていればこのよう温度変化にはならないと思われます。
断熱容器の内部に十分なドライアイスがないと外部から流入する熱がドライアイスが昇華して吸収する熱を上回ってしまいます。外部から流入する熱は内部の温度が上がるとともに減っていくので温度の上昇は次第にゆるやかになるはずです。ただ内部のドライアイスも減っているのでドライアイスが吸収できる熱も少なくなってしまいこのような温度変化になってしまうのではないかと思います(このところは完全に想像です)
おそらく内部のドライアイスが完全になくなったのはF.のところあたりなのではないかと思います。
注目したいのはE.のところです。この部分だけちょっと不規則な変化をしています。拡大してみます。
(横軸は経過時間で単位は秒です)
ほぼ直線的に上昇していた温度がいったん緩やかな変化になりしばらくするとまたもとと同じような変化に戻ります。
左側の温度目盛を見るとちょうど0℃のところです。センサーの外側についていた霜が溶ける間だけ熱を吸収して温度上昇が鈍ったものと思われます。本来霜(氷)が溶けるあいだ温度が0℃で一定になるはずですが、そうなっていないのはセンサーの容器(アルミ管)全体が一定になっていないためとも考えられますが、おそらくセンサーの容器とセンサーの間の熱抵抗で熱が伝わるのに時間がかかるためではないかと思います。
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今回は3cm角、長さ15cmくらいのドライアイスを一本だけ入れて実験したのですが、こんなんじゃ温度をドライアイスの昇華点で一定に保つのとてもムリなようです。今、ドライアイスを3kg~5kg使ってある程度の時間温度を-79℃に保つ方法を検討中です。また近いうちエチルアルコール+ドライアイスについてもどのような温度変化をするか確認したいと思っています。
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上のグラフをもとに温度に対するサーミスタの抵抗値の変化を作ってみます。
紫の測定点はDMMを使って測定したものです。青い線はこれまでサーミスタの抵抗を測っていた方法で測ったものです。この二つについては特に問題はありません。
橙色の線は急遽回路を手直しして測ったもので、これは正確に測れていないことがわかっているので測定回路の等価回路を考えできるだけ紫の測定点と一致するような回路定数を決めて求めたものです。ただDMMで抵抗を測ったあと回路をもとに戻すのを忘れていたため-50℃から-20℃のところがありません。
このサーミスタは-40℃までしか使えないことになっていますが、グラフを見る限り-80℃まで“サーミスタらしい”抵抗値変化を示しています。
もっとも-40℃~120℃用の計算式で計算したものとはかなり違います。
青い点線はよくある基準抵抗とB定数から温度・抵抗を求める式で計算した結果です。これは-40℃でも2℃~3℃くらい実際と違ってきます。
(「サーミスタで温度を測る - 温度と抵抗値の相互変換 - B定数について」)
赤い点線はB定数が温度の関数(一次関数)とした計算式から求めたものです。このグラフは基準抵抗やB定数のその温度係数はぜんぶ0℃~65℃の実測結果から決定した値を使っています。そうすると-40℃でも誤差は0.1℃とかそんなものになります。
(「サーミスタによる温度測定の精度 - 2 - B定数の温度特性」)
単に基準抵抗とB定数から温度を求めたとすると-80℃くらいになると10℃近い誤差が出てしまうようです。一方B定数が温度の一次関数と考えるとかなり改善しますがそれでも4℃程度の誤差は出そうです。
温度・抵抗の関係はきれいな形をしているのでB定数が温度の二次関数と考えるとかなりいい近似ができるようにも思えます。
断熱容器の作り方やドライアイスの量や配置の仕方などを工夫してより精度の高い測定を行ってみたいと思います。
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参考
「村田製作所 - NTCサーミスタ」
関連
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「正確な温度を求めて (1)」
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「PICで作る温度計のセンサー比較(I2C/SPI温度センサ、サーミスタ、熱電対、白金測温抵抗体、pn接合など)」
「温度センサ(サーミスタ・熱電対・(白金)測温抵抗体)の誤差」
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「B定数について」
「B定数の温度特性」
「抵抗値-温度変換計算の精度と誤差」
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「B定数の近似式の作り方」
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放射温度計
熱力学温度計
「測定対象別記事一覧(測定、電子工作、天文計算)」
に参考になるさいとへのリンクがあります。
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