白金黒(電極)の作り方
電気伝導率のことを調べていると必ず“白金黒”というのが出てきます。なぜそういうものが必要なのかというのは「電気二重層キャパシタを作る実験と水の電気伝導率(電気抵抗率)の測定に白金黒を使う理由」 に書いたのですが、とうぜん白金黒をどうやって手に入れたらいいかとかどうやって作るかというのも気になります。
念のために書いておくと白金黒というのは白金の微粉末のことです。
気にはなったのですが、白金黒もその原料もどうせ私が買えるような値段じゃないだろうということで調べたりしませんでした。でも今日検索ワードを見ていたら「白金黒 作り方」というのがありました。やっぱり興味がある方はいらっしゃるようで、私もまたまた気になってきたので調べてみました。
ググったら(下に出てくる塩化白金酸の価格はわからなかったのですが)
塩化白金酸ナトリウム 20%溶液(Na2) (10 ml) 27,756円
というのはありました。きっとこのくらいのお値段なんでしょう。
(「PGI」のオンラインショップにありました)
なお、上の電気伝導率(計)の話は白金黒の表面積が大きいことを利用しているわけですが、触媒としても強力で、白金黒を使った実験の例をあげたものがありましたの紹介しておきます。
「高校化学 触媒作用を実感できる白金の実験開発とその授業 富山県立桜井高等学校 横田淳一/湯沢光男 栃木県宇都宮市立若松原中学校」
水素を吹きかけるだけで発火するとか怖いです。
さらに白金黒というと黒体輻射なんかの話につながりそうですが、今のところ興味がないので省略します。
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白金黒の作り方はいくつか見つかりました。まずWikipedia、白金黒という項目はないのですが「アダムス触媒」 という項目があります。アダムス触媒というのは酸化白金の粉末だそうで
アダムス触媒は塩化白金酸(H2PtCl6)または塩化白金酸アンモニウム((NH4)2PtCl6)を硝酸ナトリウムに溶融させて製造される。
として作るそうです。さらに
(アダムス触媒を)水素と処理して白金黒に変換したものが反応に利用される。
とあります。“水素と処理して”とあいまいな表現ですが、ガラス管に酸化白金を入れておき水素ガスを流して還元するということでしょうか。それと“硝酸ナトリウムに溶融させて”というとことが気になります。素直に解釈すると硝酸ナトリウムを熱して溶かしその中に入れるということになると思います。硝酸ナトリウムの融点は308℃なんですが。
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「weblio - 三省堂 大辞林 - 白金黒」 にもありました。
黒色の微粉末の白金。ヘキサクロロ白金(Ⅳ)酸などをアルカリ性水溶液中で,ホルムアルデヒドやギ酸ナトリウムなどで還元すると得られる。体積で110倍の水素,100倍の酸素を吸蔵し,強力な酸化還元触媒である。白金ブラック。
作り方を見るとこちらは白金黒の沈殿が得られるからそれを水で洗えばいいように見えます。
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いずれも得られた白金黒は粉末として得られるわけで触媒として使うのならそれでもいいのでしょうが、電気伝導率測定や電気分解の電極としてそのまま使うわけにはいかなさそうです。
電極の作り方については「山形大学大学院 理工学研究科 データベースアメニティ研究所 - 【ナレッジ】 白金黒」にありました。
1~3%の六塩化白金酸2)と酢酸鉛の水溶液をカソード分極して作ります。
1gの六塩化白金酸を30mLの水にとかし、10mgの酢酸鉛を添加して、約30mA/cm2の電流密度で約5-10分カソード分極してめっきします。
めっき反応後、0.1M硫酸中でカソードおよびアノード分極し、水洗いしてできあがりです。白金黒電極は使用しないときには蒸留水中に保存することが大切です。
作り方がとても具体的です。材料があれば自分でも作れそうな気分になります。
蒸留水中で保存するように書いてありますが、これはWikipediaにある
H2に曝した後のアダムス触媒には注意が必要である。生成した白金黒は発火性を有するので、乾燥させることは避け、酸素との接触も最小限にすべきである。
と符合します。ここで発火性を有するというのは(触媒作用で可燃物と酸素(空気)があると発火するからということではなく)酸素があると白金が簡単に酸化してしまうというように読めます。
となると三省堂大辞林の“体積で100倍の酸素を吸蔵する”という表現はちょっとおかしいような気もします。
いずれにしても「白金黒を作ってみた」という記事は永久に書けそうにありません。
なお白金黒を白金として回収する場合はWikipedia「Wikipedia - アダムス触媒」によれば
王水に溶解させたのちアンモニアで処理して、塩化白金酸アンモニウムにする。
のだそうです。
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参考
JIS K 0213 分析化学用語(電気化学部門)
JIS K 0130 電気伝導率測定方法通則
JIS K 0102 工場排水試験方法
JIS K 0557 用水・排水の試験に用いる水
「第十六改正 日本薬局方 」 (2.51 導電率測定法、常水、精製水、注射用水、等)
「日本分析機器工業会 - 分析の原理
- 電気化学測定の原理と応用 - 電気伝導率計の原理と応用 」
「産業技術総合研究所 - (技術資料)電気伝導率標準液に関する調査研究 」
<== 他の資料には書いてないようなことが書いてあり参考になります。
「【化学補助教材】 放送大学:濱田研究室 - 第14章 エネルギー変換の化学 - 3.電気分解」
「HORIBA - LAQUA - やさしいpH・水質の話 」
「栗田工業 - 水処理教室 」
「日本冷凍空調学会 - 用語集 - 超純水」
「八光電機 - 熱の実験室 」 <== おもしろいです! 氷の電気伝導度とかあります。
「雑学 H2O - 水質の化学」 <== 興味深い記事があります。
「松尾勉・室松昭彦・井ロ薫 - 電導度計の製作と実験」
「東所沢 2-31-12 - 溶液の電気特性 <== 実測値があります。
- 1章:溶液の電気特性測定用電極の製作
- 2章:A、B、C電極の水道水テストとD、E電極の試作
- 3章:食塩水の電気特性 」
印加電圧が高すぎるような....
「厚生労働省 - 水質基準項目と基準値(51項目) 」
「東京都水道局 - 水質検査結果」
「川崎市上下水道局 - 水質検査結果 」 (工業用水の電気伝導率の測定結果があります)
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これとかどうなんでしょう?
https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/W01W0116-1112.html
投稿: 白金黒について | 2022年4月21日 (木) 21時16分