ナトリウムランプのスペクトルの詳細 - 改良版DVD簡易分光器
ナトリウムの輝線は二つセットになったものが多いです。なぜかというのは例えば
「放送大学:濱田研究室 - 物質の科学・量子化学(98)
- 第2章--ミクロの世界の記述-量子力学の基本的な考え方 3.電子のスピンとパウリの原理」
にあります。D線場合電子が3pの励起状態から3sの基底状態に遷移するときスピンの向きによって発生する光の波長に僅かに差異が生じるということみたいです。とするときっと隣接した二つの波長の光の強さは同じなんでしょう。
「自作DVD分光器で調べる低圧ナトリウムランプのスペクトル」に書いたナトリウムランプのところに行ってもう一度スペクトルを調べてきました。今回使うのは「DVD簡易分光器の改良 (1)」から始まる記事で書いている改良版の方です。レンズを使っているという時点で簡易分光器とはいえないような気もするのですが、作りはとても簡単なものなので簡易分光器ということにします。回折格子は「フラウンホーファー線の画像が画期的に改善! - 太陽光のスペクトル」に書いたようにDVD-Rに取り替えてあります。
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結果だけ示します。
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スペクトルがとてもシャープになっています。何箇所か水銀の輝線らしきものが見受けられます。このナトリウムランプは駐車場にあったのですが、どういうわけかナトリウムランプは一つだけでほかは水銀灯でした。そのため水銀灯のスペクトルが混じり込んでいるのでしょう。
下の分光分布のグラフを見るとわかるのですが、ナトリウムの輝線はなんとなく二つに分裂しているように見えます。
そこで画像を拡大して調べてみました。まず緑色あたりの部分です。
右側は水銀灯の輝線と思われますが、左側のナトリウムの輝線は中央付近がわずかに暗くなっており2本の輝線から構成されていることがなんとなくわかります。
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黄色あたり
中央に簡易分光器の色解像度チェック用の557.0nm/559.1nmの水銀の輝線が見えます。この二つの輝線が分離して見えれば合格なわけですが、余裕で分離しています。
左側にあるナトリウムの輝線はよく見ると三つの波長から構成されているように見えます。ここは完全に飽和しておりグラフでそれぞれに輝線の飽和状態を見ると左側の2本が568.3nmと568.8nmに相当するようです(あんまり根拠はないです)
さて右側には吸収線が見えます。「自作DVD分光器で調べる低圧ナトリウムランプのスペクトル」ではここに強い輝線があるように見えたのでここがD線でこのランプは低圧ナトリウムランプと判断しました。
より色解像度が高くなった今回の画像では、実際にはD線のところに吸収線があったわけです。つまりじつはこのランプは高圧ナトリウムランプだったという衝撃の事実が判明しました (^^;;
この吸収線ですがよく見ると中央付近が明るくなっています。つまり589.0nmと589.6nmの吸収線が判別できるように見えます。
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最後に波長が大きい赤い方です。
ここには615.4nm/616.1nmのセットがあるのですが、これは文句無しに分離して見えます。
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こうやって見ると露出に気をつければ0.5nm程度の色分解能は確保できているようです。つまりナトリウムのD線が輝線であってもちゃんと分離できるように思えます。
これだったらもっと焦点距離の長いレンズを使えばよかったと後悔しています。改良版簡易分光器は(フィルター径が40.5mmだったら、あるいは40.5mmに変換できれば)自由にレンズを交換できるという特徴があるのにもったいないことをしました。
もう一回行ってくればいいのですが、最近だんだんひと目が気になってきました。分光器のレンズの向きとカメラのレンズの向きがほぼ直交しているのできっと、あいつ何の写真を撮っているんだろう、と思われていそうです。
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人目が気になる~(≧m≦)
近所の話ですが、夏休みに公園で星を撮っていて補導されてしまった高校生もいるみたいです^^;
夜中にたむろしていても一人でいても勘違いされるケースがあるということですね。
それはそうと記事はかなり面白いです。こんなにはっきりスペクトルが取れるとは。
投稿: ほよほよ | 2016年5月25日 (水) 21時11分
田舎だったら、またあそこのじじいがヘンなことやってる、で済むんでしょうが、都会だとあらゆる可能性(?)を考えられてしまいますからね (^^;;
あとはもう赤方偏移とかゼーマン効果とかそういう方向でしょうか。
「新しい試み」期待してます (^^)
投稿: セッピーナ | 2016年5月25日 (水) 21時50分
この分解能流石ですぅ\(^o^)/
ほんと、作ってみたくなったわ。
これで撮影していては確かに怪しまれますよね!
こりゃぁ「○○実験中」とかの看板出すか腕章着けて余計に目立つしかありませんわ(^_^)v
投稿: クリ | 2016年5月26日 (木) 00時58分
確かに公用(?)っぽく装えばいいかもしれませんね。作業服を着るとか (^^;;
まだ色解像度との戦いは続くのですが、当面の目標は達成できたと思います。
じつはレンズなしでもこのくらいの解像度は出てたりします。
ただ前側のレンズはあったほうがムラが出にくいのは確かです。前側のレンズを天体望遠鏡の対物レンズにすれば恒星のスペクトルも撮れそうな感じですが、今はそこまで持っていく気力がありません。
投稿: セッピーナ | 2016年5月26日 (木) 09時53分
すばらしい分解能になってきましたね。
ところで、ゴーストが出ていた件、私もTT@北海道さんがコメントされたように、媒体円盤の反射が原因かと思っていました。
ところが、DVD-Rでゴーストが出なくなったということから考えると、DVD-ROMの二層の記録層の影響でゴーストが出ていた、いう気がします。2層のDVD-ROMの層間隔は55±15μm(DVD-R DLだと25±5μm)らしいので、もし可能なら、ゴーストの位置が層間寸法から予想される値と矛盾しないか計算で確認してはいかがでしょう。とは言っても層間の物質の屈折率が判らないのですが、おおざっぱに値が一致すれば、少し安心できると思います。
投稿: ラジオペンチ | 2016年5月26日 (木) 15時37分
あ、なるほどそれはありえそうですね。
55μmというとふつうの(コヒーレントでない)光は上の層と下の層の反射光は干渉を起こさないのでしょうか。もし干渉しないとすれば上の層のスペクトルと下の層のスペクトルが別に現れそうですね。
屈折率などどう取り扱ったらいいのかよくわからないことが多いですが...
スリット、回折格子、カメラの位置関係をもとに波長からカメラ(センサー)上の写る位置を求めるシートを作ってあるのでまずそれでやってみようかと思います。
これ実験テーマとしてはとっても面白いのかもしれません。
たいへん興味深いご指摘ありがとうございました m(._.)m
投稿: セッピーナ | 2016年5月26日 (木) 16時20分