ナトリウム炎色反応のスペクトル(二つのD線)
高圧ナトリウムランプやメタルハライドランプのスペクトルを観察するとD線(吸収線)がなんとなく二つに分かれているようにも見えます。この二つのD線D2、D1は589.0nm、589.6nmと0.6nmしか離れておらず簡易分光器の観察対象としては相当に難しい部類になります。
吸収線が二つに分かれて見えるのなら輝線だって二つに分かれて見えるように思えます。
低圧ナトリウムランプの光を見てみればすぐにわかるのですが、その低圧ナトリウムランプが近所に見当たりません。高圧ナトリウムランプだったらいくらでもあるのですが。
そこで炎色反応を利用してナトリウムD線を見てみることにしました。
まず次のような配置でネオン管のスペクトルを調べます。
--------
次に光源にナトリウムの炎色反応を追加します。
なぜわざわざこういうことをするのかというと二つ理由があります。
一つはナトリウムのスペクトルはD線のみが強く他の輝線は露出によっては写らず、ナトリウムの炎色反応だけだと撮影されたものが確かにナトリウムのD線であることを示すには説得力不足だからです。
もう一つの理由は輝線が二つに分かれて見えたときそれが間違いなく二つの輝線であることを確認するためです。
ピントが合っていないとき一つの輝線が二つに分かれて見える場合がありますし、さらに「簡易分光器にDVD-ROMを使うとゴーストが出る理由」にあるように存在しない輝線が見えてしまうということもあります。。
幸いD線はネオン管の輝線が密集しているあたりにあります。ネオン管の輝線が正常に撮影されていてD線が二つに分離して見えればそれはD1、D2に間違いないはずです。
----------
結果です。
ネオン管の588.2nmのスペクトルのすぐとなりに炎色反応による輝線が見えます。間違いなくD線ですし、しかも確かに二つに分かれています。
上の画像は(クリックして表示される状態で)ピクセル等倍なのですが、これを4倍に拡大してみます。
D1とD2に間隔は5ピクセルしかありません。間の黒い部分は1ピクセルか2ピクセルというギリギリのところで写っています。ここにはわずか1.4nmの幅のところに3本の輝線があります。分光器の色解像度よりカメラの空間解像度の方が心配になってきます。
この画像は一発で撮れたわけではありません。ピントが合ってない、露出が過大、さらに炎色反応とシャッターのタイミングが合わなかった、とかいろいろあって何度も繰り返す中でやっと撮れた奇跡の一枚です。
-------
上の画像をグラフにして波長を書き入れたものです。
「DVDで作る簡易分光器の校正のために - ネオン管のスペクトル」の頃から考えるとずいぶん進歩したものです。それぞれの輝線はとてもシャープです。
なおナトリウムD線の吸収線が二つに分離している例は「ナトリウムランプのスペクトルの詳細 - 改良版DVD簡易分光器」にあります。
前の記事 「簡易分光器にDVD-ROMを使うとゴーストが出る理由」
次の記事 「スペクトル画像(分光写真)を数値化(グラフ化)する方法」
まとめ記事
「DVD簡易分光器の自作とトラブルシューティング」 (この記事)
「光源別スペクトル(分光分布)一覧表 - DVD簡易分光器による」
--------
関連
「簡易分光器の作り方と反省点 - DVD-ROM使用」
「DVD簡易分光器の改良 (1)」
「DVD簡易分光器の改良 (2) - 構造・作り方 」
「DVD簡易分光器の改良 (3) - 仮組立 」
「DVD簡易分光器の改良 (4) - 組み立て」
「簡易分光器にDVD-ROMを使うとゴーストが出る理由」
「DVD簡易分光器のスリット幅と色分解能の関係」
「DVD簡易分光器の波長と画像位置の関係」
「簡易分光器の作り方 - 回折格子をどうする」
「DVD簡易分光器の性能チェック - 色分解能の調べ方」
「デジカメの分光感度特性と白熱電球のスペクトル」
「デジカメの分光感度特性補正の試み - スペクトル画像のグラフ化」
「スペクトル画像(分光写真)を数値化(グラフ化)する方法」
「DVD簡易分光器の色分解能を岡山天体物理観測所と比較する」
「DVDで作る簡易分光計 - 蛍光灯の分光スペクトル」 (三波長型蛍光灯)
「蛍光灯でもこれだけ違うスペクトル - 自作DVD分光器」
「DVDで作る簡易分光器 - 水銀灯の分光スペクトル」
「DVDで作る簡易分光器の校正のために - ネオン管のスペクトル」
「ナトリウムランプのスペクトルの詳細 - 改良版DVD簡易分光器」
「ナトリウム炎色反応のスペクトル(二つのD線)」
「D線が存在しない高圧ナトリウムランプのスペクトル - DVD簡易分光器」
「自作DVD分光器で調べるナトリウムランプのスペクトル」
「メタルハライドランプのスペクトル - DVD簡易分光器」
「半導体レーザー(レーザーポインター)のスペクトル」
「太陽光のスペクトルと主要なフラウンホーファー線」
「フラウンホーファー線の画像が画期的に改善! - 太陽光のスペクトル」
「DVD簡易分光器で見るフラウンホーファー線(太陽光のスペクトル)」
「フラウンホーファー線 - DVD簡易分光器による太陽光のスペクトル」
「光害カットフィルターLPS-P2の分光特性(1) - DVD自作分光器」
「色分解能 (3)」 (「色分解能 (1)」、「色分解能 (2)」、「色分解能 (2)」)
「色分解能 - 1 - ドップラー効果とかゼーマン効果とか....」
「色分解能 - 2 - ドップラー効果とかゼーマン効果とか....」
「ゼーマン効果で太陽の磁場を測る?」
「ドップラー効果で太陽の自転速度を測る話し」
「Hαフィルターを使わずにHα写真を撮る方法」
「測定対象別記事一覧(測定、電子工作、天文計算)」
「過去記事の一覧(測定、電子工作、天文計算)」
参考
「国立科学博物館 - 理工学研究部 - 若林文高 - DVD分光器の回折条件」
「Welcome to my homepage. - DVD分光器」
「星は空の彼方、月よりも遠く
- 光害除去フィルター(3)透過特性の観察(2016/03/05)
- 光害除去フィルター(4)-脱線(簡易分光器の直線性)(2016/03/18)」
「ラジオペンチ - DVDのメディアで簡易分光器を作る-その1」
「廊下のむし探検 - 手作り分光器」 (記事一覧)
「ブログ「廊下のむし探検」付録 - 手作り分光器の作り方」
「Web Page of T.Nomoto - スペクトル色々」 (「ネオンランプと水銀ランプ」)
「国立天文台 - 分光宇宙アルバム」
「国立天文台岡山天体物理観測所 - ☆スペクトル物語☆~デジタルアトラス~」
「原子スペクトルの観察と波長の測定 - リュードベリ定数の測定及び原子のエネルギー準位」
「資源エネルギー庁 - 太陽エネルギーの基礎知識」
「岩崎電気 - ランプ光源情報」
「ライトエッジ - 放電ランプ - メタルハライドランプ」
国立天文台編 「理科年表 第88冊」 丸善出版、2014
« 簡易分光器にDVD-ROMを使うとゴーストが出る理由 | トップページ | スペクトル画像(分光写真)を数値化(グラフ化)する方法 »
「趣味の実験」カテゴリの記事
- 100Ω抵抗器の端子間で発生した火花放電(沿面放電)(2018.07.18)
- Amazonで買った「400000V高電圧発生モジュール」の出力極性(2018.07.15)
- 高電圧モジュールの放電開始電圧 - 針状電極間の放電(2018.07.11)
- 高電圧モジュールの放電開始電圧 - 円筒電極と針状電極(2018.07.09)
- 放電開始電圧をパッシェンの法則から知る(2018.07.07)
この記事へのコメントは終了しました。
« 簡易分光器にDVD-ROMを使うとゴーストが出る理由 | トップページ | スペクトル画像(分光写真)を数値化(グラフ化)する方法 »
コメント