光害カットフィルターLPS-P2の分光特性(1) - DVD自作分光器
まず最初に東京の夜空を撮影するとどういう波長の光が含まれているかということを紹介しておきます。これはちょっと曇った日のもので一回限りのものなので典型的な状況かどうかはわかりませんので、そこは念のためお断りしておきます。
緑色のAと黄色~赤色系のCのところが目立ちます。
Aは水銀の輝線です。街灯などに使われる水銀灯がすぐに思いつきますが、蛍光灯、高圧ナトリウムランプ、メタルハライドランプなどたいていの光源から発せられています。
Cの部分はまず思いつくのは高圧ナトリウムランプです。ナトリウムランプと聞くと強い輝線(D線)を思い浮かべられる方が多いと思いますが、高圧ナトリウムランプの場合D線のところは暗線となりその周囲に強い帯状のスペクトルが現れます。メタルハライドランプもこのあたりの波長に強い光の帯があります。
Bのあたりにも何かあってよさそうですが、吸収されているのかもしれません(もともと今の撮影方法だとこのあたりの感度は低いので強いピークが見られることはあまりないですが、放電管を使った白色光源は青、緑、黄~赤あたりに輝線あるいは蛍光物質による帯状のスペクトルが見られるものです)
「光源別スペクトル(分光分布)一覧表 - DVD簡易分光器による」 参照
光害カットフィルターは人工光が特定の波長だけ強いことを前提にしているわけですが、LEDはもちろんメタルハライドランプなんかもまんべんなく光を出しています。
今まで水銀灯だったものがいつの間にかメタルハライドランプに変わっていた、という経験もありますし大都市での暗い天体の撮影はなかなかたいへんです(東京の某国道沿いの照明を調べてみたら車道が高圧ナトリウムランプ、歩道がメタルハライドランプでした)
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LPS-P2に限らず光害カットフィルターは写真の画質を改善するためにあるわけで性能を知りたければ分光特性など調べなくて自分の撮りたい天体を撮って(あるいはそういう写真を探してきて)フィルターの効果を確かめればいいわけですが、そこをあえて分光特性の面からいろいろ考えてみたいと思います。
こういうことをするのはメーカ(販売店)の資料のフィルター分光特性の意義付けに恣意的なものを感じるということも理由にあります。
まず白色LEDの光をLPS-P2を通したもののスペクトル
人工光の輝線が予想される540nmや580nmのところにけっこう深いディップがあります。
ただメーカーの資料とはぜんぜん異なる形になっています。これは使っている光源も分光器・カメラも分光特性がフラットではないからとうぜんです。
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今回問題になるのは減衰率(つまり相対値)なのでフィルターのあるときとないとき特性がどう違うかだけ調べればいいはずです。
光源の白色LEDのスペクトル
このグラフと最初のグラフの差がフィルターの特性ということになります。
左側の数値は単にRGB値とそれから(適当に)求めて光の強さですので、差が20だとか比が0.8だったとしてもそれがどの程度の減衰を意味するものなのかはわかりません(それから“光の強さ“の求め方があんまり適切でなさそうという問題もあります)
これを調べるために白色LEDの光の強さが(一律に?)弱くなったときのスペクトルを調べます。
光源の白色LEDを-1EVで撮影したときのスペクトル
この光の強さと画像のピクセル値の関係は以前調べたことがあって
EV値が1変化すると画像の明るさ(ピクセル値)は約36変化する
(ISO100の場合)ラティチュードは10.5EVあり、直線性が確保される範囲は5.5EV
という結果が出ていた(「デジカメPENTAX Q7の静止画と動画の明るさ比較 」、「ISO値の設定によるラティチュードの違い」)のですが、この“法則”を今回の結果に直接適用していいのか、そこから検討が必要です。
ということで、最終的な結果を出すにはもう少し時間がかかりそうです。
実際このようなことをされた方がいらっしゃるのですが現実にはけっこう大変そうです。
「廊下のむし探検 - カメラの波長感度3」
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関連
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「ドップラー効果で太陽の自転速度を測る話し」
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「測定対象別記事一覧(測定、電子工作、天文計算)」
「過去記事の一覧(測定、電子工作、天文計算)」
参考
「国立科学博物館 - 理工学研究部 - 若林文高 - DVD分光器の回折条件」
「Welcome to my homepage. - DVD分光器」
「星は空の彼方、月よりも遠く
- 光害除去フィルター(3)透過特性の観察(2016/03/05)
- 光害除去フィルター(4)-脱線(簡易分光器の直線性)(2016/03/18)」
「廊下のむし探検 - 手作り分光器」 (記事一覧)
「ブログ「廊下のむし探検」付録 - 手作り分光器の作り方」
「Web Page of T.Nomoto - スペクトル色々」 (「ネオンランプと水銀ランプ」)
「原子スペクトルの観察と波長の測定 - リュードベリ定数の測定及び原子のエネルギー準位」
「資源エネルギー庁 - 太陽エネルギーの基礎知識」
「岩崎電気 - ランプ光源情報」
「ライトエッジ - 放電ランプ - メタルハライドランプ」
国立天文台編 「理科年表 第88冊」 丸善出版、2014
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コメント
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あれ?LPS-P2お持ちだったのですね(゚0゚)
見落としていました。
そしてメーカー資料を検証してみるあたりがさすがです(o^-^o)
投稿: ほよほよ | 2016年5月11日 (水) 20時50分
あ、たぶん記事には書いていないと思います。小惑星用ですが、小惑星の記事自体ほとんど書いていませんから (^^;;
こうやって見るとキレがいいですね。ただムダにキレがいいような気もしてきています。
投稿: セッピーナ | 2016年5月11日 (水) 21時52分