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2016年5月 2日 (月)

水の電気分解で電池はできるか? - 電気二重層の静電容量

水を電気分解をしたあと電源をとりはずして電極間電圧を測るとしばらくの間それなりの起電力を示します。

10MΩの内部抵抗の電圧計(DMM)に相当する方法で電極間電圧を測ったときの電圧の時間変化
_10m

この現象について“水の電解の結果電池ができたから”と説明したものも多いです。中には“電解で発生した酸素と水素で燃料電池ができるから”と説明したものまでありました。

確かに電池ができそうな理由はありそうですし、実際電池ができているのかもしれませんが、いろいろ実験をしてみると電解後の起電力のかなりの部分は“電池ができたから”ではないように思えます。

この記事ではこのことについて実験結果を示します。

=====

上の図を見ると電圧が少しずつ下がっています。そのまま放っておいたらどうなるか気になるところですが、10MΩ負荷ではやっていられないのでこれを100kΩ負荷にしてみました。

100k

まず中央のB.の部分に注目します。この部分の電圧の時間変化はコンデンサーの放電に似ています。

コンデンサーだとすると

  Q=CV

の関係が成り立ちます。これを時間で微分すると

  dQ/dt = CdV/dt

となります。左辺は電流に相当しますから負荷抵抗をRとすると

  -V/R = CdV/dt

ということになります。これから

  C = -V/R/(dV/dt)

でコンデンサーの放電と考えたときの静電容量を求めることができます。B.の部分でこれを計算すると C=60μF~90μFと思われます(コンデンサーの放電曲線と完全に一致しているわけではないので上の式で計算すると計算結果=静電容量は変動し値に幅が出てきます)

このコンデンサはおそらく電極の周りに形成された電気二重層(コンデンサ)ではないかと思います。

そう考えるとA.の部分も説明がつきます。ここは電圧が高いので電気二重層に蓄えられた電荷で電解が進むはずです。とするとここもコンデンサーの放電曲線に近いかたちになるはずで実際そのように見えます。

C.の領域になると電気二重層に蓄えられた電荷の放出は終わっていると思われるので、この部分の電圧0.4Vは電気二重層では説明のつかないものです。

この実験では電解終了直後電極間電圧は1.8Vあるわけですが、

  1.4V .... 電気二重層に蓄えられた電荷によるもの
  0.4V .... 電気二重層では説明がつかず、電池ができたことによるものかも
       (濃淡電池みたいなもの?)

と解釈するのが妥当なようです。

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1.4Vが電気二重層によるものであることを示すものがもう一つあります。

一定の電流(83μA)で電解をしたときの電極間電圧の変化
(電圧を一定にしての電気分解ではなく定電流源による電気分解です)
80ua

使っているのは定電流源ですから、電極間電圧は電源を接続したとたんに水の電気分解に必要な電圧になるはずですが、そうはなっていません。電圧が急上昇するA.の部分、電圧の上昇がゆるやかになって行くB.の部分、電圧がほぼ一定になっていくC.の部分からなります。これは次のように説明できます。

  A. 電流はすべて電気二重層(コンデンサ)の充電に使われている。
  B. 電気分解が始まり電流の一部は電解により発生したものになる。
    電気二重層(コンデンサ)に流れ込む電流が減り電圧の上昇にブレーキがかかる
  C. 電気二重層(コンデンサ)の充電がほぼ終了し電流はすべて電気分解によるものになる。

余談です。
水の電気分解に必要な最低の電圧は1.23Vとされていますが、1V近いところからすでに電気分解が始まっているようです。電極の周りにできる電位の勾配にムラがあるから、だと思うのですが...
あるいは水の電気分解以外の現象が起きているのかもしれません。すぐに思い浮かぶのは鉄電極の溶出・析出ですが、この現象は白金チタン電極や炭素電極でも起きるようです。


ここでA.の部分から電気二重層(コンデンサ)の静電容量を求めることができます。

  dQ/dt = CdV/dt

つまり

  I = CdV/dt

ですから

  C = I/(dV/dt)

となります。最初の部分は0.3秒で0.5V上昇しています。

  C = 83e-6 / (0.5.0.3) = 50μF

となり、上の100kΩ負荷のときの電圧の変化から求めた静電容量とオーダーは合っています。

-----

なお最初の10MΩの抵抗を接続したときの電圧の変化から静電容量を求めてみたら8μF程度とずいぶん小さくなりました。これは電圧が比較的高いところなので電解が続いているため(=実際には10MΩより小さい抵抗を接続しているのと等価)だと思います。

100kΩの方は電解を止め5秒後に負荷を与えています。負荷をかける前の5秒間の電圧電流の関係は10MΩの形によく似ています。つまり10MΩの方の電圧電流の関係は負荷以外のものによる影響を大きいことがわかります。。

このあたりはもう少し検証が必要です。

--------

今回の実験回路
Testcm3current

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参考

  渡辺正・金村聖志・増田秀樹・渡辺正義 「基礎化学コース 電気化学」 丸善、2001
  【ナレッジ】酸素化電圧について教えてください
  「鈴木智恵子・居林尚子 - 水の電気分解における電極と電解質の関係についての再検討
  谷川直也・森勇樹 - 水の電気分解の実験条件に関する再提案
  田中貴金属 産業用製品 - 様々な場面で使用される不溶性電極
  日本化学会編 「教育現場からの化学Q&A」 丸善、2002
  「
化学のはてな? - 221 純水の電気分解
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加熱による水の電気分解装置の工夫
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CiNii - 純水の電気分解実験(私の工夫)
  「
哲猫 - 電気分解に於ける電極の溶出 (マイクロスケールケミストリー)

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