簡易分光器の作り方 - 回折格子をどうする
分光器を作る場合一般的にはプリズムか回折格子ということになるのですがプリズムの選択肢はなさそうです。回折格子の場合は表面の加工の精度だけが問題なのに対しプリズムはその材質も問題になってくるのでそれなりのものは高価になりそうです。特にとことん色解像度を追求するときは大きなプリズムが必要になるのでますます不利になりそうです。
回折格子にしてもそれなりのものはそれなりのお値段です。カタログを見ていて、これほしいなあ、というのはだいたい数万円のオーダーです。フィルム状の安価なレプリカで済ませてもいいのですがけっきょく身近にあるCDとかDVDを使おうということになります。これだと材料費はただみたいなものですし精度も強度も期待できますから。
性能(色分解能)的にはもちろんDVDの方がいいです。
「簡易分光器の回折格子 - CDとDVDの違い」
CD、DVDをそのまま使おうと思うと分光器が大きく不格好になるので必要な大きさに切断して使うことになるのですが、これがけっこうたいへんです。
CDをまるまるそのまま使う例もあります。
「天文月報 - 2006年10月 - 天球儀 - コンパクトディスクを使った簡易分光器の製作」
DVDの場合実際に扱った感じとしてはDVD-RよりDVD-ROMの方が強度があるように思えるのですが、DVD-ROMがゴーストで使いものにならなかったというのはすでに書いたとおりです。
私が使ったDVD-Rは安物のせいなのか切れば折れ曲がり剥離してきます。しようがないので二枚におろして記録面の方を使うのですが切り方が悪いと変形するし、記録用と思われる色素が付着してます。
(「DVD簡易分光器の改良 (4) - 組み立て」より)
この写真を見ても回折格子のところのなんとなくきたならしい感じがわかっていただけると思います。
このDVD-Rから回折格子を作るところは
「ラジオペンチ - DVDのメディアで簡易分光器を作る-その1」
がとても勉強になります。写真入りでやり方を説明してありますし注意事項とか参考になることも多いです。
じつは私も色素を落とそうと石鹸で洗ったのですがぜんぜんダメでした。しようがないのでそのまま使っていたのですが。ラジオペンチ さんの記事にあるようにエチルアルコールで拭いたらあっさり色素が落ちました。
色素が残っていると格段に性能が劣化する、ということはないようですが、ないほうがいいに決まっていますし、一つ一つの部分をていねいにやっていれば性能は少しずつ上っていくと思います。
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簡易分光器の性能=色解像度は(厳密には正しくないところがありますが)
スリットの間隔、スリットから回折格子までの距離、回折格子の格子密度
で決まります。現状
スリット間隔 0.1mm程度
回折格子までの距離 150mm程度
格子密度 1350本/mm
でやっています。フラウンホーファー線の写真
(「太陽光のスペクトルと主要なフラウンホーファー線」より)
から考えると色解像度は2000を超えるところまで持ってこれているようです。b2とb3/b4の間隔は0.37nmです(ナトリウムのD1、D2の間隔は0.60nm)
<==== 上の図の書き込みとその説明には誤りがあります。このことについては記事の末尾に補足を追加しました。
上の数値から理屈で考えた色解像度をだいたい達成できているようなので、今後色解像度をあげようとすると上のどれかを変えていく必要があります。
スリット間隔はもうちょっと狭くしたいのですが、自分の工作技術の限界に達しているような気がします。となると回折格子までの距離を大きくとるということになるのですが、夜の街の明かりを気軽に撮るというのができなくなりそうです。今でも不審者と間違えられないかヒヤヒヤですから。
またいずれもスペクトル像が暗くなるという問題もあります。
となると手のうちようがないということになるのですが、DVDをBlu-rayにするというのはどうなんでしょう。
「Sony - ブルーレイディスクの仕組み」
を見たら“トラックピッチ 0.32μm”とありました。これは格子密度約3100本/mmとなり現状の倍以上の格子密度が実現できることになります。
ちょっとググッてみたのですが、それらしい製作記事が見当たりませんでした。何かうまくいかない理由があるのか試してみたい気がしています。
<== 手ごわそうな感じです。“簡単に作れる”が簡易分光器の条件ならちょっと違うような....
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スペクトル像はカメラで撮影して記録しています。カメラの解像度(というかピクセル数)以上のデータは記録できません。私の使っているPENTAX Qは4000x3000ですので、色解像度が3000あるいは4000 2000を超えてくるとその色解像度が生かせないことになってしまいます(いくつの色解像度で何ピクセルのカメラが必要かはいろいろ仮定を前提にした話になるのではっきり言えないのですが、400~700nmの範囲を撮影するとして色解像度2000の分光器に対し5000ピクセルのカメラがあれば問題は生じないような気がします)
現実にそれに近い状態が起きています。下の画像では輝線の幅やその間隔が1、2ピクセル程度になってしまっています。
(「ナトリウム炎色反応のスペクトル(二つのD線)」より)
上にあるフラウンホーファー線の写真はこの問題に対応するため望遠レンズを使ってスペクトルの一部だけ撮影するという方法をとっています。
色解像度の向上を目指すのはいいのですが、それにともなってこういう問題も発生してきます。
気が早いですが、この対策は回折格子を回転させられるようにするか、カメラの位置を回折格子の周りで回転させるしかないと思われます。
カメラを回転させるのが適切な対応と思うのですが、そうなると精度のいいターンテーブルとか必要になってきます。
そこでこれもラジオペンチ さんの記事ですが
「ラジオペンチ - HDDの部品でポタ赤が作れないか、構想中」
「ラジオペンチ - HDDポタ赤、メカ完成して動作確認したけれど・・」
に注目しています。
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ところで色解像度をどこまで上げられれば満足できるのか?
自分にもわかりません (^^;;
ちなみにゼーマン効果を見るには最低でも今より一桁以上高い色解像度が必要そうです。
太陽の自転に伴うドップラーシフトを観察するにはさらにもう一桁必要そうです(“最高級品”はこれよりさらに2桁くらい解像度がいいらしいです)
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b線についての補足
この記事を書いたときは「Wikipedia - フラウンホーファー線」 にある表をもとにb線はb1/b2/b3+b4からなっているとしました。最近は理科年表をもとにしているのですがそちらの方が実態にあっているようです。これによればb線のところはb1、b2、b4の三つからなっておりb2は517.270nm、b4は516.733nmでその差は0.54nmです(Wikipediaと理科年表ではb4の波長も異なっています)
(「簡易分光器の限界に挑む - フラウンホーファー線(b)」より)
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まとめ記事
「簡易分光器 - 作り方・使い方のまとめとリンク集」
簡易分光器とは?
簡易分光器の実力
太陽光(フラウンホーファー線)
蛍光灯
原理・設計
製作・材料
スリット
回折格子
構成/構造
フラウンホーファー線の撮影法
簡易分光器の性能評価
トラブルが起きたときの対処法
画像の数値化・グラフ化
デジカメの分光感度特性
スペクトルデータの再画像化
分光器の応用
光害カットフィルターの特性を調べる
半導体レーザー出力光の波長の変化
簡易分光器では手が出せないもの
スペクトルに関する資料集
スペクトル(画像)の実例
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「測定対象別記事一覧(測定、電子工作、天文計算)」
「過去記事の一覧(測定、電子工作、天文計算)」
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コメント
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解説ありがとうございます。色素を洗い流してもすぐに判るほどの違いは無かったということですね。まあ、おっしゃるように綺麗にしておいた方が何かと安心ではあります。
あと、HDDの部品でポタ赤を作る試みの記事のリンクありがとうございます。HDDの部品なので回転軸(極軸)の精度は問題無いと思いますが、問題は角度を変化させるメカだと思います。DVDのヘッド移動用の送りネジとモーターではパルスあたりの角度の変化量が大きすぎる気がして、頓挫しちゃってます。
投稿: ラジオペンチ | 2016年6月 9日 (木) 17時25分
しっかり調べたわけではないのですが、感覚的にはさほど差はないようです。
でも色素がついたまま使うというのは精神衛生上よろしくないので安心感があります。
じつは以前赤道儀を自作しようとして挫折した経験があります。摩擦が最大の問題だったのですが、ラジオペンチさんの記事を拝見して目からウロコでした (^^)
最初は円滑にガタがなく回転できることができればそれでいいので回転メカニズムは後から考えるつもりです (^^;;
ただ迷光対策をどうすればいいのかというところから始まるので時間がかかりそうです。
投稿: セッピーナ | 2016年6月 9日 (木) 18時50分