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2016年6月25日 (土)

簡易分光器の撮影方法 - フラウンホーファー線を例に

簡易分光器を使ってスペクトル画像を撮るのにだいぶ苦戦しました。ここらで整理しておきたいと思います。特にフラウンホーファー線が難しかったのでこれを例に書いてみます。

なお具体例として

  簡易分光器・半値幅0.04nmの撮影条件

にフラウンホーファー線を撮影したときの詳細な撮影条件(簡易分光器のセッティングやカメラの設定値)があります。

・簡易分光器

こんなのを使っています(カメラ=PENTAX Qは40.5mmのフィルタにねじ込んで固定しています)
Photo

スリットと回折格子(DVD)とカメラを所定の位置関係に置くだけなのですが、分光器内部の迷光が極力少なくなるようにします。隙間を塞ぎ内部をマットブラックで塗るか内側に黒い紙などを使うようにします。

特にフラウンホーファー線の画像はちょっとしたことで台無しになるので注意深く作ります。例えば上の図でスリットから回折格子の光路の途中に遮光板を入れてありますが、これがあるのとないのとでは写りがぜんぜん違ってきます。

回折格子側からスリットを写した画像です(撮影条件は同一です)

遮光板なし
Imgp3577te1000

遮光板あり
Imgp3578te1000

遮光対策をいろいろやって行くと最後に残るのはこういうスリットから入って分光器の内部で反射する光です。

それからスリットの近くにピンホールのような小さな隙間があったりするとゴーストが発生します。輝線であればそれが二本写るだけですが、フラウンホーファー線の場合は暗線が見えなく(見えづらく)なってしまいます。

遮光板の有無による違い
Photo

コントラストがかなり違ってきます。

・スリットとスリット回折格子間距離

スリット回折格子間距離をL、スリット間隔をs、格子間隔をdとしたとき、色分解能は M=L/s/d に依存します。簡易分光器の構造からするとMが同じであればLとsを大きくした方が有利なはずです(確証はありませんが)

今はL=190mm/310mmでs=0.1mm~0.7mm(ときにL=530mm、s=0.2mm~0.7mm)くらいでやっています。撮影対象と(下に書くように)適正な露出条件から使用するスリット幅を決めています。ただし太陽直接光によるフラウンホーファー線の撮影ではスリット間隔は0.05mm程度まで狭くしています。

・カメラ

フォーカス、露出がマニュアルで設定できるものが必要です。オートで撮影できる対象は限られます。
今PENTAX Qを使っています。DVDを回折格子として使った場合400nm~700nmくらいの範囲が画角に収まる焦点距離は15mmくらいです(35mm版換算で83mmくらい)
最初のうちは(35mm版換算で50mmくらいの)もう少し短い焦点距離の方が扱いやすいかもしれません。また輝線やフラウンホーファー線の細部が見たいときは(35mm版換算で150mm~200mmくらいの)もう少し長めの焦点距離を使っています。

最近は06 TELEPHOTO ZOOMというレンズ一本で済ませています。
Imgp3527te1000
f=15mm~45mmです。35mm版換算で80mm~240mmくらいです(35mm版換算の数値はPENTAX Qで使うときとPENTAX Q7で使うときは異なります)


・露出条件

スリットを狭くしたりスリットと回折格子間の距離を大きくするとスペクトル像は暗くなります。そういう悪条件で必要な画質を得るための露出条件を予め調べておきます(私の場合=PENTAX Qの場合はISO125、F4.0、0s~30sくらいがいちばんいいようです)

スリットやスリット・回折格子間距離を決めるときは調べておいた露出条件に収まるようにします。色分解能をあげようと思ってスリットの間隔を狭くしてもそのためにISO値を大きくしたら画質が悪化してかえって色分解能が落ちたとかありました。
いつもはスリット間隔は0.1mmだけど今日は雨が降っているから0.2mmにしておこう、というのが時間のムダがないです。

フラウンホーファー線の場合露出条件がちょっと変わると写りがぜんぜん違ったりします。吸収線の波長によってオーバー気味がいいのかアンダー気味がいいのか変わってくると思いますので(特に最初のうちは)少しずつ露出を変えて撮っておいた方がいいと思います。

なお、デジカメのRGB値から光の強度に関する有意な情報は取り出せそうにないのでホワイトバランスは自分の好みでいいのではないかと思います。
私はホワイトバランスの調整が機能しない(はずの)設定にしていますが....

<== 撮影した画像をRAWデータとして保存すると光の強さに応じたRGB値(正確に書くと、RGB各センサーの出力値)を得ることができるようです。
  「
デジカメの分光感度特性はRAWデータを調べればわかる?

・直接光か間接光か?

できるかぎり色分解能が高い画像がほしいなら直接光で写すべき(「簡易分光器の限界に挑む - フラウンホーファー線(b)」)だと思います。

ただ直接光で写すのは黒点の撮影と同じでいろいろな問題が出てくるのでけっこう面倒です。減光フィルターというか散光フィルターみたいなのも必要になります。レジ袋とか。

  よく考えると薄曇りの日というのが最高のコンディションかもしれません。

一度直接光での撮影を行ったのですが、なかなかうまく撮れない(=打率が低い)ので面倒くさくなってやめました。現時点でよく撮れていると感じる画像はほとんどすべてが間接光によるものです。晴れた日が少なかったということもありますが (^^;;

==> 2016年6月19日以降の分解能の高い画像は直接光の撮影によるものです。

ヘリオスタットで太陽光を室内に導入し、じっくり撮影というのがいちばんいいように思います。単にフラウンホーファー線を撮るだけだったらヘリオスタットといっても黒点撮影と違ってアバウトな作りで問題ないはずです。構想はしています。センサーを鏡のところにおかず分光器のところにおけば制御はそんなに難しくなさそうです。

直接光による撮影例
Imgp3535e1000

減光(散光?)の失敗例ですがHβ~b1/b2/b4あたりはけっこうよく写っています。
Imgp3535t10002

ピントをb1/b2/b4のところで合わせて撮ったものです。L=310mm、s=0.1mmだったと思います。

-----

その後撮った直接光によるD線 ( d=0.074μm、 L=310mm、 s=0.05mm? )
Imgp4086d1d2

(撮影条件はD3線はいずこ? - 簡易分光器の限界に挑むにあります)

この画像では見づらいのですが二つのD線D1とD2の間に別の暗線が見えます。
分解能の高いスペクトル画像が撮れたので差し替えました。D1、D2の間に暗線が6本見えます。


ピントの合わせ方

これが最大の問題になりそうです。

太陽光でも直接光であればフラウンホーファー線でピントを合わせられないこともないですが、間接光だとまずムリだと思います。少なくとも私のカメラではそうでした。
フラウンホーファー線でなくても炎色反応とかプラズマボールみたいなのも対象物でピントを合わせるのは難しいです。

と書いたのですが、

  「ラジオペンチ - DVDのメディアで簡易分光器を作る-その4、(デジ1使って撮影)

を拝見するとカメラ次第では間接光でのフラウンホーファー線のピント合わせができるカメラもあるようです。

やり方は二つあります(考えればもっとあるかもしれません)

一つはスリットを交換可能にしておいてピント合わせのときだけ広めのスリットを使うという方法です。フラウンホーファー線の場合はこれでも難しいと思いますがネオンランプの暗めの輝線のピント合わせなんかには便利です。次の方法の補助的な方法でもあります。

もう一つは別に光源を用意しておき、まずそちらでピント合わせを済ませておく方法です。
次のようなものが使えます。

435nmから532nm(あるいは549nm)に飛んでいるところが気になりますが、熱帯魚/爬虫類飼育用のメタルハライドランプをお持ちの方はそれを使えないか確かめてみられるといいと思います。

蛍光灯
Hg 404.7nm
比較的強いはずですが、私のデジカメの分光感度特性では使えません。Hδ線(Wikipediaではh線)よりちょっとだけ短い波長です。
蛍光灯
Hg 435.1nm
これはけっこう強いです。Hγ(WikipediaではG')とほとんど同じ波長です。
半導体レーザー(緑色)
秋月だと532nmくらいです。
私は持っていませんが、強力なのでピントあわせにはいいでしょう(ただしコヒーレント光特有のギラギラ感があるはずでそれがどのくらい邪魔になるかはわかりません)このためにわざわざ買う気にはなれないお値段でした。
蛍光灯
Hg 546.8nm
とても強いのでたいていの撮影条件で使えます。場合によっては減光が必要です。E線とD線のちょうど真ん中あたりです。ピントを合わせやすいのでこれより短い波長のところはこれで済ませることが多いです。
蛍光灯
Hg 576.959nm
Hg 579.065nm
あんまり強くはありません。D線よりちょっとだけ波長が長いです。これはピントあわせというよりセッティングに問題ないか、どの程度の色分解能が出ているかなどチェックするのによく使っています。
ネオンランプ
Ne 585.2nm
ネオンランプの中ではいちばん強い輝線です。波長がD線とあんまり変わらないのでフラウンホーファー線やナトリウム炎色反応のD線ピント合わせに向いています。
ネオンランプ
Ne 588.2nm
D線とほとんど変わらないのですがあんまり強くありません。ネオンランプの輝線は585nm~668nmに集中しており、このあたりの光の波長を正確に求めたいときはいっしょに写しこんでおくと便利です。D線~Hα線のあたりをカバーします。
蛍光灯
蛍光物質
約612nm
これは蛍光物質のルミネッセンスですが、強くシャープなのでピント合わせに使えないこともないです。D線とHα線の間でカルシウムの吸収線があるあたりです。
半導体レーザー(赤色)
秋月のだと650nmくらいです。
超強力なのでピント合わせにいいのですが、特有のギラギラ感があります。Hα線(WikipediaだとC線)と同じくらいの波長です。波長は温度などで変化するので波長の基準には使えません。

 

蛍光灯のスペクトル分布(数値化+一次元化=>再画像化したもの)
Imgp8997m45d41400400700svg

546.8nmは強すぎて白飛びしてしまっています。

蛍光灯でピントを合わせたあと太陽光を撮るつもりだったが、蛍光灯をどけるのを忘れてシャッターを切り、あわてて蛍光灯をどけた、という状況の画像
Imgp9342e1000


・画像処理

画像の数値化はやってみるとおもしろいと思います。スペクトル画像は数値化するとき一次元化するとノイズが大幅に減り、画像では見えなかった輝線や吸収線が存在するのがわかることもあります。さらに再画像化すればそれをスペクトル画像として見ることができます。

b1/b2/b4のところを数値化・一次元化・再画像化した例です(明暗がわかりやすいようにトーンカーブも調整してあります)
Imgp3680m44d63514d97520d362

b2とb4の間に暗線が二つに見えますがこれは実際に存在する吸収線です。
  「簡易分光器の限界に挑む - フラウンホーファー線(b)



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