DVD簡易分光器のスリット幅と色分解能の関係
「ナトリウム炎色反応のスペクトル(二つのD線)」で現在のDVD-R簡易分光器で0.6nmしか離れていないナトリウムのD線(D2、D1)を分離してみることができるということを書きました。
そこで簡易分光器でどれほどの色解像度が実現できるのかを理屈で考えてみました。
スリット、回折格子(DVD-R)、カメラの位置関係を次の図のように考えます。
===============
まず入射角(正しくは入射光と回折格子がなす角)をθ1、出射角(これも正しくは出射光と回折格子のなす角)をθ2としたとき一次の回折光には次の関係が成り立ちます。
光の波長 λ = d * ( cos θ1 - cos θ2 )
ここでdは回折格子の格子間距離でDVDの場合は1/1350mmです。
一方 カメラの光軸と回折格子の交わる点を原点とした座標で
スリットを(x0, y0)
カメラレンズを(xc, 0)
回折格子を y = ax + b の直線状
においたとき
スリットから回折格子(を含む直線(平面))におろした垂線の長さをh0
カメラレンズの中心から回折格子(を含む直線(平面))におろした垂線の長さをhc
とすると
h0 = |y0-a*x0-b|/√(1+a^2)
hc = |-a*xc-b|/√(1+a^2)
となります。
ある波長の回折光がカメラに写ったときレンズの中心をとおる光が回折格子上で反射した点を(x, y)=(x, ax+b)とすると
θ1 = asin(h0/√((x-x0)^2+(y-y0)^2))
θ2 = asin(hc/√((x-xc)^2+y^2))
の関係があります。これと最初の式からこのときの光の波長を求めることができます。
またこの光はセンサー上の
y/(xs-x)*f
の位置に写ります。ここで f はレンズとセンサー間の距離でレンズの焦点距離より若干大きくなります。センサーのピクセル密度がわかればこれから画像上のピクセル位置がわかります。
x(あるいはy)を少しずつ変化させながら上記の計算をしていくと以上の式からそれぞれのx(あるいはy)に対する波長と画像位置が求まります。
つまり波長と画像位置の関係も求まります。上の図にある寸法で実際に計算しグラフにしたものです。

波長と画像位置の関係はだいたい線形になります。上のような複雑な計算をしているので完全に線形であるわけではないのですがちょっと見ると直線のように見えます。もっと厳密に考えたらどうなるかはまた別の記事に書く予定です。
上の位置関係の場合波長が1nm増えると位置はおおよそ7ピクセル増えます。上の位置関係は「ナトリウム炎色反応のスペクトル(二つのD線)」を想定しており、それらしい結果になっています。
---------
次にスリットの位置が右に0.1mm動いたときの波長と画像位置の関係を調べます。つまりスリット幅が0.1mmあるとき輝線は画像上どの程度の幅に写るかを考えます。

青い線は最初のグラフで赤い線がスリットを0.1mm動かしたときのグラフです。
これを見ると同じ波長の光でもセンサー上の位置が1ピクセル程度動くことがわかります。ピクセルの真ん中に輝線がくるとは限らないのでたいてい2ピクセルは露光しているでしょう。
ただこれは理想的な状態__回折格子のある範囲に平行に光があたっている状態__を想定しています。つまりスリット幅を狭くしてもスリット幅に比例してスリット幅がせまくなっていくわけではなく「色分解能 (3)」 にある制約から逃れることはできません。
「ナトリウム炎色反応のスペクトル(二つのD線)」の(拡大した)画像を見ると暗めの輝線はだいたい2ピクセル幅くらいになっているようです。となるとこのレベルはほとんどスリット幅で色分解能が決まっているのかもしれません。おそらくこれはDVDが回折格子としては1350本/mmという高い格子密度をもっているためだと思います。回折格子として使用されている幅が同じであれば色解像度の限界は格子密度に比例するからです。
以上から考えると「ナトリウム炎色反応のスペクトル(二つのD線)」でD2、D1の二つの輝線を分離できたという結果は上の寸法で作ったときの解像度の限界をほぼ達成できているようにも思えます。
となると次は今の構造でスリット幅を狭くするということになるのですが、0.1mm以下のスリットというのはとても作りにくいです。スリットだけは買ってくるか、あるいはスリットと回折格子間の距離をもっと大きくとるか、そういう方向に進むことになると思います。
前の記事 「DVD簡易分光器の色分解能を岡山天体物理観測所と比較する」
次の記事 「DVD簡易分光器の改良 (4) - 組み立て」
まとめ記事 「光源別スペクトル(分光分布)一覧表 - DVD簡易分光器による」
--------
関連
「簡易分光器の作り方と反省点 - DVD-ROM使用」
「DVD簡易分光器の改良 (1)」
「DVD簡易分光器の改良 (2) - 構造・作り方 」
「DVD簡易分光器の改良 (3) - 仮組立 」
「簡易分光器にDVD-ROMを使うとゴーストが出る理由」
「DVD簡易分光器の改良 (4) - 組み立て」
「デジカメの分光感度特性と白熱電球のスペクトル」
「デジカメの分光感度特性補正の試み - スペクトル画像のグラフ化」
「スペクトル画像(分光写真)を数値化(グラフ化)する方法」
「DVD簡易分光器の色分解能を岡山天体物理観測所と比較する」
「DVDで作る簡易分光計 - 蛍光灯の分光スペクトル」 (三波長型蛍光灯)
「蛍光灯でもこれだけ違うスペクトル - 自作DVD分光器」
「DVDで作る簡易分光器 - 水銀灯の分光スペクトル」
「DVDで作る簡易分光器の校正のために - ネオン管のスペクトル」
「ナトリウムランプのスペクトルの詳細 - 改良版DVD簡易分光器」
「ナトリウム炎色反応のスペクトル(二つのD線)」
「D線が存在しない高圧ナトリウムランプのスペクトル - DVD簡易分光器」
「自作DVD分光器で調べるナトリウムランプのスペクトル」
「メタルハライドランプのスペクトル - DVD簡易分光器」
「半導体レーザー(レーザーポインター)のスペクトル」
「フラウンホーファー線の画像が画期的に改善! - 太陽光のスペクトル」
「DVD簡易分光器で見るフラウンホーファー線(太陽光のスペクトル)」
「フラウンホーファー線 - DVD簡易分光器による太陽光のスペクトル」
「光害カットフィルターLPS-P2の分光特性(1) - DVD自作分光器」
「色分解能 (3)」 (「色分解能 (1)」、「色分解能 (2)」、「色分解能 (2)」)
「色分解能 - 1 - ドップラー効果とかゼーマン効果とか....」
「色分解能 - 2 - ドップラー効果とかゼーマン効果とか....」
「ゼーマン効果で太陽の磁場を測る?」
「ドップラー効果で太陽の自転速度を測る話し」
「Hαフィルターを使わずにHα写真を撮る方法」
「測定対象別記事一覧(測定、電子工作、天文計算)」
「過去記事の一覧(測定、電子工作、天文計算)」
参考
「国立科学博物館 - 理工学研究部 - 若林文高 - DVD分光器の回折条件」
「Welcome to my homepage. - DVD分光器」
「星は空の彼方、月よりも遠く
- 光害除去フィルター(3)透過特性の観察(2016/03/05)
- 光害除去フィルター(4)-脱線(簡易分光器の直線性)(2016/03/18)」
「廊下のむし探検 - 手作り分光器」 (記事一覧)
「ブログ「廊下のむし探検」付録 - 手作り分光器の作り方」
「Web Page of T.Nomoto - スペクトル色々」 (「ネオンランプと水銀ランプ」)
「国立天文台岡山天体物理観測所 - ☆スペクトル物語☆~デジタルアトラス~」
「原子スペクトルの観察と波長の測定 - リュードベリ定数の測定及び原子のエネルギー準位」
「資源エネルギー庁 - 太陽エネルギーの基礎知識」
「岩崎電気 - ランプ光源情報」
「ライトエッジ - 放電ランプ - メタルハライドランプ」
国立天文台編 「理科年表 第88冊」 丸善出版、2014
まず入射角(正しくは入射光と回折格子がなす角)をθ1、出射角(これも正しくは出射光と回折格子のなす角)をθ2としたとき一次の回折光には次の関係が成り立ちます。
光の波長 λ = d * ( cos θ1 - cos θ2 )
ここでdは回折格子の格子間距離でDVDの場合は1/1350mmです。
一方 カメラの光軸と回折格子の交わる点を原点とした座標で
スリットを(x0, y0)
カメラレンズを(xc, 0)
回折格子を y = ax + b の直線状
においたとき
スリットから回折格子(を含む直線(平面))におろした垂線の長さをh0
カメラレンズの中心から回折格子(を含む直線(平面))におろした垂線の長さをhc
とすると
h0 = |y0-a*x0-b|/√(1+a^2)
hc = |-a*xc-b|/√(1+a^2)
となります。
ある波長の回折光がカメラに写ったときレンズの中心をとおる光が回折格子上で反射した点を(x, y)=(x, ax+b)とすると
θ1 = asin(h0/√((x-x0)^2+(y-y0)^2))
θ2 = asin(hc/√((x-xc)^2+y^2))
の関係があります。これと最初の式からこのときの光の波長を求めることができます。
またこの光はセンサー上の
y/(xs-x)*f
の位置に写ります。ここで f はレンズとセンサー間の距離でレンズの焦点距離より若干大きくなります。センサーのピクセル密度がわかればこれから画像上のピクセル位置がわかります。
x(あるいはy)を少しずつ変化させながら上記の計算をしていくと以上の式からそれぞれのx(あるいはy)に対する波長と画像位置が求まります。
つまり波長と画像位置の関係も求まります。上の図にある寸法で実際に計算しグラフにしたものです。

波長と画像位置の関係はだいたい線形になります。上のような複雑な計算をしているので完全に線形であるわけではないのですがちょっと見ると直線のように見えます。もっと厳密に考えたらどうなるかはまた別の記事に書く予定です。
上の位置関係の場合波長が1nm増えると位置はおおよそ7ピクセル増えます。上の位置関係は「ナトリウム炎色反応のスペクトル(二つのD線)」を想定しており、それらしい結果になっています。
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次にスリットの位置が右に0.1mm動いたときの波長と画像位置の関係を調べます。つまりスリット幅が0.1mmあるとき輝線は画像上どの程度の幅に写るかを考えます。

青い線は最初のグラフで赤い線がスリットを0.1mm動かしたときのグラフです。
これを見ると同じ波長の光でもセンサー上の位置が1ピクセル程度動くことがわかります。ピクセルの真ん中に輝線がくるとは限らないのでたいてい2ピクセルは露光しているでしょう。
ただこれは理想的な状態__回折格子のある範囲に平行に光があたっている状態__を想定しています。つまりスリット幅を狭くしてもスリット幅に比例してスリット幅がせまくなっていくわけではなく「色分解能 (3)」 にある制約から逃れることはできません。
「ナトリウム炎色反応のスペクトル(二つのD線)」の(拡大した)画像を見ると暗めの輝線はだいたい2ピクセル幅くらいになっているようです。となるとこのレベルはほとんどスリット幅で色分解能が決まっているのかもしれません。おそらくこれはDVDが回折格子としては1350本/mmという高い格子密度をもっているためだと思います。回折格子として使用されている幅が同じであれば色解像度の限界は格子密度に比例するからです。
以上から考えると「ナトリウム炎色反応のスペクトル(二つのD線)」でD2、D1の二つの輝線を分離できたという結果は上の寸法で作ったときの解像度の限界をほぼ達成できているようにも思えます。
となると次は今の構造でスリット幅を狭くするということになるのですが、0.1mm以下のスリットというのはとても作りにくいです。スリットだけは買ってくるか、あるいはスリットと回折格子間の距離をもっと大きくとるか、そういう方向に進むことになると思います。
前の記事 「DVD簡易分光器の色分解能を岡山天体物理観測所と比較する」
次の記事 「DVD簡易分光器の改良 (4) - 組み立て」
まとめ記事 「光源別スペクトル(分光分布)一覧表 - DVD簡易分光器による」
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関連
「簡易分光器の作り方と反省点 - DVD-ROM使用」
「DVD簡易分光器の改良 (1)」
「DVD簡易分光器の改良 (2) - 構造・作り方 」
「DVD簡易分光器の改良 (3) - 仮組立 」
「簡易分光器にDVD-ROMを使うとゴーストが出る理由」
「DVD簡易分光器の改良 (4) - 組み立て」
「デジカメの分光感度特性と白熱電球のスペクトル」
「デジカメの分光感度特性補正の試み - スペクトル画像のグラフ化」
「スペクトル画像(分光写真)を数値化(グラフ化)する方法」
「DVD簡易分光器の色分解能を岡山天体物理観測所と比較する」
「DVDで作る簡易分光計 - 蛍光灯の分光スペクトル」 (三波長型蛍光灯)
「蛍光灯でもこれだけ違うスペクトル - 自作DVD分光器」
「DVDで作る簡易分光器 - 水銀灯の分光スペクトル」
「DVDで作る簡易分光器の校正のために - ネオン管のスペクトル」
「ナトリウムランプのスペクトルの詳細 - 改良版DVD簡易分光器」
「ナトリウム炎色反応のスペクトル(二つのD線)」
「D線が存在しない高圧ナトリウムランプのスペクトル - DVD簡易分光器」
「自作DVD分光器で調べるナトリウムランプのスペクトル」
「メタルハライドランプのスペクトル - DVD簡易分光器」
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「フラウンホーファー線 - DVD簡易分光器による太陽光のスペクトル」
「光害カットフィルターLPS-P2の分光特性(1) - DVD自作分光器」
「色分解能 (3)」 (「色分解能 (1)」、「色分解能 (2)」、「色分解能 (2)」)
「色分解能 - 1 - ドップラー効果とかゼーマン効果とか....」
「色分解能 - 2 - ドップラー効果とかゼーマン効果とか....」
「ゼーマン効果で太陽の磁場を測る?」
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参考
「国立科学博物館 - 理工学研究部 - 若林文高 - DVD分光器の回折条件」
「Welcome to my homepage. - DVD分光器」
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「資源エネルギー庁 - 太陽エネルギーの基礎知識」
「岩崎電気 - ランプ光源情報」
「ライトエッジ - 放電ランプ - メタルハライドランプ」
国立天文台編 「理科年表 第88冊」 丸善出版、2014
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