簡易分光器の回折格子 - CDとDVDの違い
それはDVDの方が格子密度が高いから、ということになるのですが、じゃあなぜ格子密度が高い方がいいのかという疑問が湧いてきます。
せっかくExcelでシミュレートできるようにしたのでそれ(「簡易分光器の特性をExcelでシミュレーションする」)を使ってDVDとCDでどう違うか調べてみました。
それから半値幅は数値だけではイメージがわかないと思うのでどんな感じかその目安を書いておきます。
半値幅 1nm 蛍光灯(低圧水銀灯)、高圧水銀灯で黄色あたりにある近接した2本の輝線(577.0nm、579.1nm)がはっきり分離して見えます(「蛍光灯のスペクトルに11本の水銀の輝線を見る」)
半値幅 0.5nm フラウンホーファー線のb1(518.4nm)とb2(517.3nm)がはっきり分かれて見えます。
半値幅 0.3nm ナトリウムのD線(589.0nm、589.6nm)やフラウンホーファー線のb2(517.3nm)とb4(516.7nm)がはっきり2本に見えます(「ナトリウム炎色反応のスペクトル(二つのD線)」 )
半値幅 0.1nm フラウンホーファー線のb2(517.3nm)とb4(516.7nm)の間に暗線があるのがわかります。
半値幅 0.05nm フラウンホーファー線のb2(517.3nm)とb4(516.7nm)の間に暗線が2本あるのがわかります(「簡易分光器の限界に挑む - フラウンホーファー線(b)」 の最初の画像)
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どういうカメラ(レンズ)を使うかで結果が違ってくるのですが、ここではf=50mm、F4つまりレンズ径12.5mmとしてやっています。分光器の場合はカメラレンズ径は回折光をすべてとらえられるだけの大きさが必要なのですが、入射光が平行でない簡易分光器の場合はそれをやってしまうと分解能が極端に悪化してしまうのでF値を大きめにしています。
この例は「天文月報 - 2006年10月 - 天球儀 - コンパクトディスクを使った簡易分光器の製作」にある製作例とだいたい寸法を合わせてあります(CDがDVDに変わっているので出射角だけは違います)これは「国立科学博物館 - 理工学研究部 - 若林文高 - DVD分光器の回折条件」 にあるDVDを使った簡易分光器の寸法とも似通っています。

半値幅は0.5nm(色分解能>1000)くらいと思われます。
緑のプロットはスリット上端、赤のプロットはスリット下端のものです。スリットの間隔はゼロではないので画像中央に収束する光の波長は違ってきます。また簡易分光器の場合は入射光が平行でないため回折格子の中央で反射する光の場合と端の方で反射する光の場合でも異なってきます。
これを見るとスリットを少し狭くするともっと分解能がよくなりそうですが、そうなると入射光が平行でないことの影響が相対的に大きくなるのでスリットを半分にしたから分解能が2倍になるとはいかないようです。
「国立科学博物館 - 理工学研究部 - 若林文高 - DVD分光器の回折条件」 にはスリット間隔を0.5mm~0.2mmにするように書いてありました。0.2mmというのは製作が難しくならないようにという意味もあるのでしょうが、おそらくそれより狭くしても分解能はあんまりよくならないからという理由もあるのでしょう。
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次にCDの場合ですが、こちらは「天文月報 - 2006年10月 - 天球儀 - コンパクトディスクを使った簡易分光器の製作」のままです。
スリット間隔の影響も入射光が平行でない影響もDVDに比べて大きくなります。そのため半値幅は1.0nm(色分解能 > 500 )くらいになってしまっています。
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分光器の色分解能の理論的上限は回折格子の格子密度と大きさできまるのですが、上の結果を見るとわかるようにこの値はDVDの場合17,000、CDでも10,000程度あります(CDが格子密度が小さい割に大きいのは回折格子のカメラの光軸に対する傾きが大きいため実質的な回折格子長が大きくなっているからです)
つまりCDよりDVDの方が格子密度が高いからその分だけ色分解能が高いというような直接的な関係はなさそうです。
CDとDVDで色分解能が異なるのは出射角が違うためだと思います。
「CD/DVD簡易分光器設計のポイント」に書いたように入射角で出射角を微分したもの dβ/dα = sinα / sinβ は出射角が小さくなるほど大きくなり、出射角は入射角の影響を大きく受けるようになります。これはスリットの間隔の大きさや入射角が平行でないことの影響を強く受けることを意味しています。これがCDの分解能がDVDより悪くなることの直接的な原因だと思います。
もっともCDの出射角が小さくなってしまうのは格子密度が低いためですからけっきょく格子密度が高いほど色分解能が高いという因果関係になってしまうのですが。
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ところでCDを使って上の位置関係で簡易分光器を作ったときの色分解能について「天文月報 - 2006年10月 - 天球儀 - コンパクトディスクを使った簡易分光器の製作」には
この配置において、スリット幅が02mmの場合、波長分解能R=λ/Δλはおよそ500と見積もられる.
と書かれています。配置から色分解能を見積もる簡単な式が作れるのかもしれません。
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