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2016年7月12日 (火)

フラウンホーファー線が輝線に見えるとき - 色分解能による見え方の違い

フラウンホーファー線の間にナトリウムの輝線が見えた?という記事を書いたのですが、常識的に考えたら何かの間違い----何らかの理由で輝線があるように見えただけ----としか思えません。

実際にそんな例がないか探したら最近撮影したものにありました。ナトリウムD線のはざまでD線について書いたのですが、このときは焦点距離がそんなに大きくなかったのでb1線くらいのところまで写っています。つまりE線も写っているわけですが、D線を撮るのが目的なのでE線のあたりはピンぼけ気味です(というか、その前に焦点距離が短くて分解能が低かったです)

この画像からE線のあたりをスペクトル画像(分光写真)を数値化(グラフ化)する方法で数値化してみました。

波長のわかっている吸収線がかなりあるのでそれらをもとに画像上の位置と波長の関係を求めグラフは横軸が波長になるように作ってあります。また理科年表やWikipediaなどから吸収線の波長を調べその位置を赤い縦線で示してあります。

Imgp4029dngm4d791301140071417
この画像はクリックすると等倍に縮小されます。

_imgp4029e520530
画像に比べるとグラフがきれいですが、これは矩形の領域を数値化するとき一次元化(平均化)されるためノイズが小さくなるためです。


まず1のところはE線です。二本の吸収線があるところですが、分離できず1本に見えています。

2.は一見問題なさそうですが、ディップが気持ち右(波長が長い方)にずれているようにも見えます。

3. は完全に位置がずれています。

4.、5.は特に問題はないようです。

6. が吸収線があるべきところがピーク(輝線)になっているケースです。そしてよく見るとピークの位置は吸収線のあるべき位置よりちょっと左にずれています。

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この波長範囲は簡易分光器・半値幅0.04nmの撮影条件で色分解能が高いスペクトル画像が撮れていますので、そちらからも同じようなグラフを作ってみました。

Imgp4089bedngm4d69150450px520530nm
この画像はクリックすると等倍に拡大されます。

_imgp4089e520530


1. E線が(少なくとも)2本の吸収線からできていることがわかります。これは0.08nmしか離れていないので最初の画像では分離できなかったものと思われます。

2. のところは強い吸収線の隣に弱い吸収線があり、それらが一つに見えていたことがわかります。

資料から集めてきた吸収線の位置はじつは弱い方の吸収線のものです。この吸収線の位置は理科年表の“おもな太陽吸収線”から拾ってきたものですが、このリストには強い方の吸収線はありません。“おもな...”と書いてあると“強い順にいくつか選んだ吸収線のリスト”というように思ってしまうのですが、これを見るとそうではないことがわかります。

ここで弱い方の吸収線がリストにある理由はよくわかりませんが、この吸収線は太陽磁場の測定に使われるもののようで、その重要性(?)からリスト入りしたのかもしれません。

3. は上とは逆のケースです。強い吸収線と弱い吸収線があり、波長のリストは強い吸収線の位置を示しているのですが、上のグラフでは弱い吸収線と分離できないためそちらに引きづられてしまい、見かけの暗線の位置は本来の位置からずれています。

これらのことから吸収線のリストとスペクトル画像の暗線の対応付けをするとき注意が必要なことがわかります。画像位置と波長の関係の近似式を作ったけれどもなんとなく残差が大きいというようなときはこういう吸収線の本来の位置からのずれがあるものが混じっていないか検討する必要があります。

4.、5.は独立した強い吸収線があるところなので上のグラフでも問題なかったようです。

さて6.なのですが、ここはペアになった吸収線が二組あります。それぞれのペアは分離できなくて一つになってしまっているのですが、二組の吸収線は完全にくっついてしまわずわずかにあいだがあいています。これが上のグラフでは吸収線があるはずの位置に輝線があるように見えてしまった理由のようです。位置が少しずれるのもこのためでしょう。

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というようなことがフラウンホーファー線の間にナトリウムの輝線が見えた?で吸収線がありそうなところに輝線があるように見える理由ではないかと思います。

要するに、真相を知りたかったらより高い色分解能でスペクトルを調べなければならない、ということになるのですが、こういう現象はとうぜんもっと高い色分解能での結果でも起きる可能性があります(フラクタルな図形を拡大しながら見ているようなものでしょうか)

どこまで色分解能を上げれば納得できる結果が得られるのか、と考えると、フラウンホーファー線の撮影は際限がないわけで、とんでもないものに手を出してしまったと後悔しています。もっとも天体写真というものはどんなジャンルでも同じようなものかもしれません。


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