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2016年7月 7日 (木)

CD/DVD簡易分光器設計のポイント

(簡易)分光器では回折格子に対する入射角αと出射角βには

  λ=m d (cosα-cosβ)

の関係が成り立ちます。この式ではλとm(ふつうは±1)を固定してもα、βの組み合わせはいくらでもあります。

今はα=20度としていますが、これは

  国立科学博物館 - 理工学研究部 - 若林文高 - DVD分光器の回折条件



“著者らによる別途実験により,DVD分光器では,入射角が 10°から 30°のときに十分な分解能が得られることがわかっている”

と書いてあったので、じゃあ20°にしておけば多少製作時にずれとかあってもたいていだいじょうぶだろう、というかなりいい加減な理由からです。

入射角が変化したときスペクトル画像はどう変化するのかということをこれまで真剣に考えてきませんでした。

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スペクトル画像を撮影して気がつくのはある波長の輝線(吸収線)でピントを合わせても他の輝線(吸収線)ではボケてしまうことです。

  ラジオペンチ - DVDのメディアで簡易分光器を作る-その4、(デジ1使って撮影)

を拝見しても同様なことが書かれておりこの現象は一般的な現象のようです。

スペクトル画像はひとことで言うとスリットの像だからカメラ~回折格子~スリットの距離を調べそれにレンズの距離リングを合わせればいいようなものですし、もしそうだとすれば波長によってそうそうピントがずれるということは考えられような気がします。ところが距離リングを見るとそれよりずっと大きな距離を示していますし、上に書いたように波長によってピントの合う位置が異なります。

つまり(簡易)分光器を作る上で重要なことを何か見落としているようです。

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今回

  「CD/DVD簡易分光器設計支援Excelシート - 位置関係と得られるスペクトル画像の関係

を作ったのも位置関係を変えながら徹底的にシミュレーションして何がどう作用しているのか究明するための下準備という意味合いがありました。

ところが最近このことについて(簡単にですが)記されたものがあることに気づきました。

  「天文月報 - 2006年10月 - 天球儀 - コンパクトディスクを使った簡易分光器の製作  

この資料には上に書いた問題の解決の糸口があります。

なおこの資料は入射角、出射角を理科の教科書で見る法線に対する角度で定義してあります。混乱があるといけないのでここではこれまで通り入射角、出射角を回折格子に対する角度とします。これから書く式が上の資料と異なるのはそのためです。

02_
下の決め方だと

  cosθ=sin(π/2 - θ)  だから

  λ=m d (sinα-sinβ)

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まず出射角を入射角で微分したもの

  dβ/dα = sinα / sinβ

これは“回折格子を通過する前と後で光束の幅が変化する割合を示すが、分散方向に像がどれだけ伸び縮みするかの割合でもある”とあります。

今作っている分光器はα<βですから入射角と変化は小さくなって出射することになります。つまりスリットが実際より遠くに見えるということでしょう。要するに回折格子は鏡とは違いレンズのような働きをしていると考えなければならないようです。

カメラのピントの合ったときの距離リングの目盛りが実際の距離より大きくなっているのはこのためだったようです。

上の式は右辺にもβが出てきていますが、これはβを使わない形に書きなおすとき波長λが出てきます。つまり実質的なスリットの位置は波長によって変化することを意味しています。波長によってピントがあわなくなるということの原因はこちらのようです。

撮影するときは実質的なスリットの位置を遠くにした方が有利そうです。となると入射角はもっと小さくした方がいいのかもしれません。

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次に出射角を波長で微分したもの(角分散)

  dβ/dλ = m/(d sinα)

こちらは波長が変化したとき出射角がどれほど変化するかということですから色分解能に関わる量ということになります。これは大きいほど有利なはずです。こちらも入射角を小さくした方がいいように思えます。

これから具体的にどう影響するのか、それによって撮影の難易度や結果がどう違うのかを試してみたいと思います。

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以上のこととは離れるのですが、スリットに関してはスリットの長さやDVDの幅(分散方向と垂直な方向の長さ)も撮影結果に影響しているように思えます。

どちらも短いほうが良好な撮影結果が得られるように感じるのです。これについては試行錯誤中なので結果が出たらまた記事にしたいと思います。

こちらはDVDのトラックが同心円上に湾曲していることか各トラックでの反射の仕方が単純な鏡面反射になっていないのが原因ではないかと思っています。

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補足

θs= 20°をθs=10°にしたときの変化を試しに計算してみました。

  簡易分光器設計支援用-02.xlsx

  「簡易分光器設計支援用-02a.xlsx
     
O13のセルにある計算式の誤りを修正したもの
    (誤)  =-COS(PI()-P5-P3)*O6-(O4-O11)
    (正)  = COS(PI()-P5-P3)*O6-(O4-O11)


スリットまでの実質的な距離(dβ/dαを考慮した距離)が20°のとき600mm~800mmくらいだったのに対し10°になると1200mm~1600mmくらいになります。角分散もそれに応じて変化しています。

単純に2倍になっただけですがピントを合わせるのは10°の方がずっと楽に思えますがどうでしょう。


θs=20°、Ls=200mm、θc=78.6°、Lc=50mm
022078d6

θs=10°、Ls=200mm、θc=75.8°、Lc=50mm
021075d8



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コメント

波長に色が付いてますね、仕事速い。あと、詳しい解説ありがとうございます。この記事を拝見してのコメントというか感想です。

1.カメラのフォーカスリングが何であんな所でピントが合うのか不思議に思っていたのですが、回折格子は凹面のシリンドリカルレンズのような効果があるんですね。

2.実は入射角(θs)=13度、θc=77度にすると入射とカメラの光軸が90度になるので、作り易いと思って最初に試しました。

でもこんなに入射角を浅くすると回折光の強度がすごく小さくなって、私が当時使っていたカメラでは撮影が苦しかったので、セッピーナさんと同じθs=20度に変えました。

回折格子に入る光量はsinθで小さくなるのでしょうが、それより急激に光量が減ったような気がします。入射角を極端に小さくすると回折効率(この言葉が適当なのかはわかりません)が急激に悪化するようなメカニズムがあるような気がします。

あと、私のブログのスペクトル写真は中心線付近だけピントが合っていてその外側はボケボケです。それに対してセッピーナさんの写真は中心線を外れても結構ピントが合っているのでどういう理由なんだろうと思っていました。

続編、期待してます。

色はけっきょく条件付き書式です。VBAがいいのでしょうが、そうするとダウンロード時に問題になりそうで...
じつは私もピントが合うはずのない(スリットまでの)距離で、なんでピントがあうんだろうと不思議に思っていました。
今回作ったExcelを使った泥臭い方法で検証する予定だったのですが、たぶんこの記事の結果と同じことになるのではないかと思います。
入射角が小さくなると回折格子(DVD)の単位長(単位面積)あたりの光量が減るからじゃないんでしょうか。sinθに比例するはずですから。でも“すごく小さくなって”ということでしたら他にも原因があるかもしれませんね。
次回改良では入射光とカメラの光軸を直角にするつもりだったんですが、厳しそうですね(限界に挑戦するつもりでダメ元でやってみますが)

それから私の画像が比較的ピントがあっているとすればそれはたぶんPENTAX Q/Q7を使っているためじゃないんでしょうか。最初のころはf=8.5mmなんていうレンズを使っていました。これがPENTAX Qの標準レンズです (^^;;

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