D3線はいずこ? - 簡易分光器の限界に挑む
「ナトリウムD線のはざま」では色分解能が今ひとつ不足していたのですが、その後ひままず納得できるD線の写真が撮れました。
オリジナルの画像を25%に縮小したものです。露出不足が残念なのですが、色分解能は高いです。D1、D2の間にある暗線の数を数えることができます。
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さっそく岡山天体物理観測所の“65cm太陽クーデ望遠鏡+高分散分光器”で撮影された画像と比較してみます。
国立天文台岡山天体物理観測所
- 太陽のスペクトル - The Solar Spectrum - - ナトリウム D線
提供 国立天文台 「自然科学研究機構 国立天文台 ウェブサイト 利用規程」によります。
もう国立天文台のサイトから拾ってきた画像と言っても信じる人がいるんじゃないでしょうか (^^;;
「スペクトル画像(分光写真)を数値化(グラフ化)する方法」で作ったグラフを見ながら検討してみました。
岡山天体物理観測所の画像を見るとD1、D2の間に7本暗線がありました。簡易分光器の画像はどう数えても6本しかみあたりません。A.のところの暗線が見えないようです。
B.のところはD1線が膨らんでいるように見えますし段差がありますから少なくとも三つ吸収線があるようです。悔しいことにこれらは岡山天体物理観測所の画像ではちゃんと写っているようです。
C.のところに0.06nm程度離れた暗線のペアがありこれは写っているのですが、D.の同じようなペアが二つに分離して見えていません。
ということで不満なところはまだありますが、それなりの達成感を感じる画像です。
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ところでWikipediaのフラウンホーファー線の項目を見ると“主なフラウンホーファー線”のリストの中にHe/D3 587.565nmというのがあります。これを探してみます。
グラフにD3 Wikipediaとコメントのついた赤い線がその位置です。どういうわけかそこには吸収線がありません。ちょっと右側(波長が大きい側)のXのところに暗線がありますが、ちょっと違いする気がします。この暗線は形からして複数の吸収線から構成されているようです。
R値を見るとこの暗線の左側がシャープでここがD3だったら納得できないこともないです。可能なかぎり波長を正確に調べて白黒をつけたいのですが、このあたりはD線以外波長のはっきりしている吸収線がなく0.01nm単位で波長を確定するのがなかなか難しいです。
理科年表の“おもな太陽吸収線”にはD3というのはありません。ヘリウムの波長と同じところに吸収線があってそれにD3と記号をつけたが実際はヘリウムの吸収線じゃなかったというようなことなのかもしれません。
もっとも理科年表(つまり国立天文台)はフラウンホーファー線にはあんまり記号をつけたくない主義のようにも感じます。ナトリウムじゃないのにDをつけるのはおかしい(誤解を招く)という単純な理由なのかも(記号は国立天文台がつけたわけではないですが)
いずれにしてもD3がどれか、そもそも実在(?)するのか、というのはもう少し吸収線の同定を進めないとむずかしそうです。
==> フラウンホーファー線にD3線が存在しないことははっきりしました。
「フラウンホーファー線の詳細リストとD3線が存在しないこと」
追記 2018.06.02
ないはずのD3線があることになっている事情については
「フラウンホーファー線にD3線が見当たらない理由」
に書きました。
最後に今回の画像の撮影データの詳細を示します。
それぞれの項目については
「CD/DVD簡易分光器設計のポイント」
「(詳細撮影条件付き)三波長型蛍光灯の分光スペクトル」
を参考にしてください。
対物レンズ | 使用せず | |
スリット | タバコ内包紙 | |
間隔 0.03mm | ||
長さ 2mm | ||
遮光板 | 厚紙 | スリットとの位置関係 |
間隔 6mm | ||
長さ 4mm | ||
コリメーター | 使用せず | |
回折格子 | DVD-R 一次回折光 |
保護層を取り除き エチルアルコールで洗浄 |
格子定数 740nm | 格子密度 1350本/mm | |
分散軸の方向の長さ ≒40mm |
切り出したままを使うとこの長さになります。 | |
クロスディスパーザー BPF |
使用せず | 不要 |
光源 | 太陽(直接光) | 霞んでおり日差しは少し弱いが影ははっきりとわかるくらい |
光源スリット間距離 | ------- | |
スリット・回折格子間距離(Ls) | 480mm | |
スリット・遮光板間距離 | 200mm | |
回折格子レンズ間距離(Lc) | 可能な限り近づけて設置 | |
画像中心波長 | 577.7nm | |
半値幅 | 0.04nm | 撮影結果に基づく推定値(λ=590nm) 色分解能 ≒15,000 |
入射光と回折格子のなす角(θ1) | 約11.5度 | 撮影結果に基づく推定値 λ= 577.7nm |
回折格子とカメラ光軸のなす角(θ2) | 約78.5度 | 〃 |
入射用パイプの中心軸とカメラ光軸のなす角(θa) | 約90度 | 設定値 |
レンズ | TAMRON A06 AF28-300mm Ultra Zoom XR F/3.5-6.3 LD Aspherical [IF] MACRO |
|
カメラ | PENTAX Q7 | |
絞り値 | f/8.0 | |
露出時間 | 5秒 | |
ISO速度 | ISO-100 | |
焦点距離 | ≒135mm | 35mm焦点距離 ≒620mm |
フォーカシング | D線でピント合わせ | 周囲の弱い暗線ができるだけ見えるように調節 |
記録形式 | JPG及びDNG | |
特記事項 | WB: CTE カスタムイメージ: ナチュラル 高感度NR: 弱 ハイライト補正: OFF シャドー補正: OFF |
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半導体レーザー出力光の波長の変化
簡易分光器では手が出ないようなもの
スペクトルに関する資料集
スペクトル(画像)の実例
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