撮影のためのDVD簡易分光器の製作 - 設計編
最近フラウンホーファー線の高分散スペクトル画像の撮影みたいなマニアックな路線を突き進んでいます。こんなことをやっていたら私のブログを読む方がいなくなってしまいそうな気もするので今回はちょっとした実用記事です。
簡易分光器の製作記事はいくらでもありますが小学校・中学校の教材あるいはその延長といった感じのが多いです。ここではスペクトル画像の撮影を目的とする場合どう作ればいいのかということに重点をおいて考えます。
今回はスリット・回折格子・カメラをどういう位置関係にすればいいのか、どういうレンズを使えばいいのか、つまり設計について書きます。設計編の次は製作編になるわけですが、とうぶん書けないというか書かないと思うのでそれは
「簡易分光器 - 作り方・使い方のまとめとリンク集」
の「製作・材料」のところなどを参考にしてください。
なおこの記事の設計は
「CD/DVD簡易分光器設計支援Excelシート - 位置関係と得られるスペクトル画像の関係」
からダウンロードできるExcelファイルや
「CD/DVD簡易分光器設計のポイント」
によっています。
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まずもっとも標準的と思われる設計です。
最初はテスト的作ってみようという方がほとんどだと思うのでスリットから回折格子までの距離は200mmと控えめにしてみました。
回折格子からレンズ(の主点)までの距離は50mmとしてありますが、ズームレンズを広角端で使ったりするとレンズの先端から主点まで100mmを超えるということもあると思います。50mmというのはレンズを回折格子にできるだけ近づけるという意味にとってください。この距離が少しくらい変わっても設計値にはあんまり影響しません。
それぞれのなす角はいろんな組み合わせがあるのですが、ここでは入射角を20度にすることにします。これがいろんな意味でいちばん“適切”なようです。
この場合スペクトル画像の分散軸がAPS-Cのカメラの短辺の方向に(つまり上下方向に)なり、400nm~700nmの波長範囲が画像に収まるようなレンズの焦点距離は35mmとなります。(あんまりお勧めしませんが)分散軸が長辺方向になるようにカメラをセットするのであれば50mmくらいのレンズが使えます。
APS-Cではないカメラをお使いの方は上の数値を1.5倍すると35mm版相当の焦点距離になるのでそれから自分のカメラに換算してください。例えばPENTAX Q系であれば上の数値を3で割ればいいです。つまり“35mmのレンズ”と書いてあったら12mmくらいのレンズを使います。
上の図にあるようにこの設計で作った場合カメラの距離設定は60cm(波長が短い場合)から80cm(波長が長い場合)くらいにする必要があります。35mmくらいのレンズだったらだいじょうぶだと思いますが、フォーカスリンスが1mからはじまっているというような場合はスリット・回折格子間の距離を大きくします。例えば400mmにすれば120cm~160cmになります。
なおスリットの間隔は最初はスリットから回折格子までの距離の1/500~1/1000(つまり200mmだったら0.4mm~0.2mm)で作ってみて様子を見てください。スリット間隔を狭くすると色分解能は上がりますが画像が暗くなり撮影に難儀します。広くすれば画像が明るく撮影しやすくなりますが分解能は落ちます。
私は最近1/16000(480mmに対して0.03mm)というスリットを使っていますが、このくらいになると撮影できるのは晴れた日の太陽だけです。
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太陽光つまりフラウンホーファー線を撮影していると上の設計では不満が出てきます。細かいところが見えないのです。そこでf=100mmの望遠レンズを使うことを考えます。さすがにこのくらいになってくるとレンズによっては1m以下ではフォーカスが合わないと思うのでスリット・回折格子間距離を倍の400mmします。
こうするとスペクトル画像が3倍くらいに拡大されて写るわけですがとうぜん写る範囲も1/3になってしまいます。中心波長を546nmで設計しているのですが、これでは490nm~600nmしか写らなくなっています。
他の波長範囲を撮影したいときは入射角を変える(回折格子の傾きを変える)か出射角を変える(カメラの向きを変える)必要があります。カメラの向き(というか置く位置)を変えるのがほんとうだと思いますが簡単な入射角を変える方を検討してみます。
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画像の中心波長を400nmにした場合
入射角は28度となります。
このように入射角を大きくとった場合スリットの見かけの位置が近くなることに注意します。
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画像の中心波長を700nmにした場合
入射角は10.5度となります。
ここではf=100mmとして検討していますが、中心波長を変えたときの入射角はレンズの焦点距離とは無関係です。
結論として回折格子(DVD)の傾きを±10度変化させられるようにしておけばどんなレンズでも400nm~700nmの任意の波長を画像の中心に置くことができます。
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「簡易分光器 - 作り方・使い方のまとめとリンク集」
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