CD/DVD簡易分光器設計支援Excelシート - 位置関係と得られるスペクトル画像の関係
これまでDVD簡易分光器についていろいろ書いてきたのですが、実際に作ろうとする方がいちばん知りたいのはスリット、回折格子、カメラをどういう位置関係にすればいいかということだと思います。
こういう位置関係で作ればいい、という記事はたくさんあります。私も書きました。一方位置関係を先に決めてどういうスペクトル画像が得られるかということを書いたものは少ないようです。
そこでスリット、回折格子、カメラの位置関係を入力すればどういうスペクトル画像が得られるかがわかるExcelシートを作りました。
「簡易分光器設計支援用-01.xlsx」
「簡易分光器設計支援用-01.xlsx」 (お遊び版、コメントの誤りは修正済み)
「簡易分光器設計支援用-01a.xlsx 」
O13のセルにある計算式の誤りを修正したもの
(誤) =-COS(PI()-P5-P3)*O6-(O4-O11)
(正) = COS(PI()-P5-P3)*O6-(O4-O11)
できたてなのであやしいところがあるかもしれません。バグ情報(「このブログの変更履歴・正誤表など」)には注意していただきますようお願いします。そう言えば固有運動の計算方法が間違っていたことについて訂正記事をまだ書いていないのを思い出しました (^^;;
DVDを前提にシートを作ってありますが格子間距離を変えればCDなどにも適用可能です。
今回は位置を決めたらどう見えるか(写るか)ですが、Excelのソルバーを使えば特定の条件を満たすような位置はどう決めたらいいかというようなことにも使えます。例えば入射光と出射光のなす角(つまりスリット-回折格子-カメラがなす角)を直角にするにはどうしたらいいかというようなことです。
ただ適切な入射角は何度かというようなことはわかりません。それについてはこの記事のExcelシートを使う前に
「CD/DVD簡易分光器設計のポイント」
などをご覧いただければと思います。
なおこの記事で画像位置pxというのが出てきますが次の図のような意味です。
スペクトルの分散軸に垂直な辺の波長が短い方(=青い方=上図では上側の長辺)からピクセル数です。
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さっそく使い方に入ります。
理屈は「DVD簡易分光器のスリット幅と色分解能の関係」 などを参考にしていただければと思います。簡易分光器の場合はふつうの回折格子の理屈とはちょっと違ってきます。
スリット・回折格子・カメラの位置関係などを入力します。
回折格子の格子間隔(格子間距離)はDVDの場合740nm(0.74μm)です。
位置関係は
θc: カメラの光軸と回折格子がなす角
Lc: カメラの光軸と回折格子が交わる点とレンズ中心を結ぶ線分の長さ
θs: カメラの光軸と回折格子が交わる点とスリットを結ぶ線分が回折格子となす角
Ls: カメラの光軸と回折格子が交わる点とスリットを結ぶ線分の長さ
で入力します。位置関係の入力方法はいろいろ考えられるのですが重要なのはそれぞれのなす角度なので上のようなやり方にしました。こういう入力方法の方が後の計算が楽だということもあります。
ここで問題なのはLcで単レンズならともかくカメラのレンズではこの値はわからないと思います。ここはひとまず
カメラの光軸と回折格子が交わる点とセンサ中心を結ぶ線分の長さからレンズの焦点距離を引いたもの
を入力しておけばいいです。じつはLcの値は少しくらい違っても計算結果(波長と画像位置の関係)にはそれほど影響しません。ただしこの値が大きくなると問題があります。このことについては最後に書きます。
他にカメラレンズの焦点距離(厳密にはレンズからセンサーまでの距離)、センサーのサイズ、センサーの画素数を入力します。センサーのサイズと画素数は縦位置で使うか横位置で使うか応じて対応する値を入力します。ここはそれぞれの値ではなくその比=画素密度が重要です。
レンズの中心とx座標は特別な目的に使うためにあり、ふつう入力の必要はありません。Lcの値がそのままセットされます。
赤い文字のフィールド以外は自動的に計算されます。
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以上の入力が終われば左下に結果が表示されます。
イタリックのところが2列ありますが、ここに波長とその波長が画像のどの位置に撮影されるかの関係があります。
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表の中にある記号の意味はその上にある図を見ればわかっていただけると思います。
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計算結果は右下にグラフで表示されます。
Excelシートに設定してある値は「DVD簡易分光器の改良 (2) - 構造・作り方 」にある“推奨設定”です。画像中央が550nmとなり400nm~700nmが画像の中に収まります。
なおこのグラフは直線に見えますが厳密には直線ではありません。実用的には二次関数で近似すればいいと思いますが、0.1nm以下を問題にするようなときは近似にはさらに工夫が必要です。
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最初の方で書いた「Lc: カメラの光軸と回折格子が交わる点とレンズ中心を結ぶ線分の長さ」の件です。計算結果にはたいして影響はなさそうですが、これは小さくした方がいいです。つまりカメラをなるべく回折格子に近づけた方がいいです。今回の例では50mmにしてありますが、これを200mmにした場合の結果は次のようになります。
DVDは溝が切ってあるところは40mmしかありません。Lcを大きくしてしまうと反射点がこの範囲から外に出てしまいスペクトル画像が得られる波長範囲が制限されてしまいます。
これに該当するところ(ΔL > 20mmあるいは ΔL < -20mm)はΔLが赤い文字になるようにしてあります。
一部の波長帯を拡大して撮影したときは望遠レンズを使うので必然的にこういう状態になります。そのとき目的とする波長範囲がちゃんと写るのかどうかのチェックに使えます。あるいは目的とする波長帯が写っていないとき位置関係に問題があるのか別に原因があるのかの切り分けに使います。
なお波長範囲が制限されると書きましたが範囲を超えたら突然見えなくなるという意味ではないです。上の図はレンズの中心を通る光線しか考えていませんが、それ以外のものもあるわけですから。ただそういうことを考え始めると一挙に問題が複雑化してしまいます。
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コメント
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こんにちは。
計算シート拝見していますが、これは便利ですね。
せっかくだから空のセルを一列追加して、そのセルを波長の値の色で塗ってはいかがでしょう。パラメーターを変化させた時に、どのあたり範囲の色が見えるのかが直感的に判って楽しい気がします。
とは言ってもカラー関数とか無さそうなのでやっかいそうですね。
条件付書式を使って数式で色を決めるとかやるのでしょうか。でも筋が悪い気が。
すみません、無責任なコメントで、
投稿: ラジオペンチ | 2016年7月 7日 (木) 09時08分
それ確かにわかりやすいですね。
ちょっと調べてみたのですがおっしゃるとおり条件付き書式しかないようです。何かいい方法ないかなあ....
SVGでグラフを作ればそれこそ虹色にだってできますが (^^;;
投稿: セッピーナ | 2016年7月 7日 (木) 10時00分