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2016年7月 2日 (土)

自作簡易分光器とすばる望遠鏡の高分散分光器HDSを比較してみた

まず回折格子を使った分光器の予備知識から。

天体望遠鏡の性能は分解能で表されます。そういう意味では分光器の性能は色分解能で表されます。波長λを観測したときΔλを分離できる能力があればλ/Δλが色分解能です。例えばD線D1とD2を分離するためには 590nm/0.6nm≒1000 なので色分解能1000が最低必要ということになります(あくまで“最低”です)

プリズムを使った分光器の色分解能の理論的上限は

  プリズムの一辺の長さ * dn/dλ  (「dn/dλ」は屈折率を波長で微分したもの)

で表されます。dn/dλは物質に依存する値ですから物性を調べなければわかりません。

一方回折格子を使った分光器の色分解能の理論的上限はとても簡単で

  回折次数 * 格子本数

です。あるいは次のようにも書けます

  回折次数 * 格子密度 * 回折格子の大きさ(幅)

以下これを前提に読んでいただければと思います。

なお“色分解能の理論的上限”という言葉の意味は

 その回折格子を使ったとき到達できる最大の色分解能

というふうには考えず

 その回折格子を使ったときどんなに工夫しても努力してもそれ以上は実現できない色分解能

と考えた方がいいと思います。

例えば回折格子全体に平行に光を当てることができなければいくら回折格子自体の色分解能が高くても分光器としての色分解能は光のあたっているところで決まる色分解能で制限されてしまいます。また分光器の色分解能が高くてもカメラの空間分解能が低ければ得られるスペクトル画像の色分解能はカメラの性能で決まってしまいます。

簡易分光器では回折次数は1なので回折次数が2以上の値というのはピンと来ないと思うのでこの記事では便宜的に次のように定義します。

  実質的回折格子密度 = 回折格子密度 * 回折次数

  実質的格子本数 = 格子数 * 回折次数

こう定義すると

  理論的分解能の上限 = 実質的格子本数

あるいは

  理論的分解能の上限 = 実質的格子密度 * 回折格子の大きさ(幅)

ということになります。

なお回折格子で作った分光器の色分解能が上の式で表される理由は

  国立天文台 - 誰でもできる高分散分光器の設計

などをご覧になっていただければと思います。“誰でもできる“と書いてありますが誰でもできるのは設計であって製作ではないので念のため。

この記事を書くためにはすばるの高分散分光器の仕様が必要です。

  すばる望遠鏡 - 高分散分光器 - HDS

あたりに書いてあると思ったのですが詳しいことは書いてないみたいです。そこでこれ以外に

  光学 39巻12号(2010) - 勝沼淳 - エシェルグレーティングを用いた高分散分光器

も参考にさせていただきました。

項目 すばる - HDS 自作簡易分光器 備考
概要

Hds_i_2_2
すばる望遠鏡 - 高分散分光器 - HDS より
自然科学研究機構 国立天文台 ウェブサイト 利用規程」によります。

Imgp3527te1000

簡易分光器 - 作り方・使い方のまとめとリンク集

HDSの大きさは手前にあるPC(?)のキーボードの大きさと比べるとわかると思います。
大きさ 6m x 6m 0.4m x 0.1m 6mx6mで6tというのはナスミス焦点で使用するときの上限だそうです。最初の設計ではこれに収まらなかったので設計を変更したとか。
重量 6t 0.00023t  分光器
0.00057t  分光器+カメラ
回折格子 エシェルグレーティング

同じマスター由来のものを 2 枚並べて固定し, 1 枚の
低膨張材上にレプリカしたモザイクグレーティング方式
DVD-R
格子密度 31.6本/mm 1,350本/mm HDSの回折格子の格子密度はDVDの1/50程度と低いです。
回折次数 210 (Max.?) 1
実質的格子密度 6,636本/mm(?) 1,350本/mm
回折格子サイズ 850 mm×320 mm * 2(?) 10mm×40 mm
実質的格子本数
(色分解能の理論的上限)
4,247,040本(?)
(6636 * 320 * 2)
54,000本
(1350 * 40)
対物鏡 有効口径 8.2m F12.6(ナスミス焦点 可視光) (1) なし (^^;;
(2) 有効口径 0.012m F1.5
(3) 有効口径 0.012m F4
スリット 幅 標準 0.2mm(視野0.43秒)  (可変)
長さ 最大 30mm(視野1分)   (可変)
交換可能
0.05mm x 5mm~0.7mm x 5mm

0.03mmx 2mm
簡易分光器・半値幅0.04nmの撮影条件
コリメータ f=3397mm F12.5 軸外放物面鏡(?)

これはちょっと自信がありません。上の数値は副鏡の仕様なのかも。これだと口径が小さすぎるような....

未使用
コリメータもどきを試したのですがあんまりいい結果が出なかったので純簡易分光器として使っています。
そのうちまた試してみたいと思います。

クロスディスパーザー 650 mm×420 mm アルミ蒸着グレーティング
青用 溝ピッチ 1/400 mm,ブレーズ角度 4.7度
赤用は溝ピッチ 1/250 mm, ブレーズ角度 5度

スリット全長観測時はクロスディスパーザーを平面鏡に交換しバンドパスフィルターを使用する
不要

一次の回折で400nm~700nmの波長範囲で使っているので必要性がありません。
カメラ
レンズ
f=771 mm 青赤モード
f=761 mm 近赤外モード

補正レンズ 650mmφ

すべて石英レンズ(紫外線を観測可能とするため)
f=8.5mm F1.9
(01 STANDARD PRIME)
f=15~45mm F2.8
(06 TELEPHOTO ZOOM)

計画中
f=28~300mm F3.5~F6.3
DVD簡易分光器のさらなる改良 - あるいはアクリル板の穴あけ
撮像素子 CCD(冷却)
4096*4096 ( 4096*2048 * 2 モザイク配列)
13.5μm画素
CMOS
4000*3000
1.85μm画素
(PENTAX Q7)
色分解能 設計仕様値(?)
 > 100,000

実測値
 5,000~10,000

最大瞬間色分解能
 15,000 ( 0.04nm @590nm )
D3線はいずこ? - 簡易分光器の限界に挑む

アマチュアの天体望遠鏡の口径と天文台の望遠鏡の口径の違いくらいの関係でしょうか。

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まとめ記事
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簡易分光器 - 作り方・使い方のまとめとリンク集
    簡易分光器とは?
    簡易分光器の実力
      太陽光(フラウンホーファー線)
      蛍光灯
    原理・設計
    製作・材料
      スリット

      回折格子
      構成/構造
    フラウンホーファー線の撮影法
    簡易分光器の性能評価
    トラブルが起きたときの対処法
    画像の数値化・グラフ化
    デジカメの分光感度特性
    スペクトルデータの再画像化

    分光器の応用
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