フラウンホーファー線の間にナトリウムの輝線が見えた?
この記事はちゃんと最後まで読んだ方がいいです。
太陽光を簡易分光器を使って撮影するとフラウンホーファー線があります。
簡易分光器を作り始めた頃は、E線ってどれだろう?、レベルだったのですが最近簡易分光器の色分解能もかなり高くなってきて太陽光を撮影するとそれこそ無数にフラウンホーファー線が写っている感じです。すでにフラウンホーファーの576本(『天文学辞典』(鈴木敬信著、1986年)によります)は軽く超えたと思われます。
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単に撮影するだけではおもしろくないので波長のわかっている吸収線(暗線)の位置を調べたり、吸収線の波長から該当する元素を調べたりしています。簡易分光器ですからそれ自体で正確な波長を知ることはできません。太陽光の直接撮影だと蛍光灯やネオン管の光をいっしょに映し込むというのもできませんので
1. 代表的な吸収線で波長がわかっているものを探し、画像位置を調べる
2. 波長と画像位置の近似式を作る
3. 吸収線の画像位置と近似式からその波長を求めて該当する元素を探す
という手順になります。
ただ実際にやってみるとなかなかたいへんです。
514nm~520nmの画像
(オリジナルの画像ではなく「スペクトル画像(分光写真)を数値化(グラフ化)する方法」で数値化し「スペクトルデータをExcelでSVG画像にしてみた」で再画像化したものです。オリジナル画像は「簡易分光器・半値幅0.04nmの撮影条件」にあるものです)
上の画像に相当する範囲の分光分布曲線
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b1とb2ははっきりしています。かなり深いシャープな暗線ですのでこれから調べた画像位置と波長の対応も正確でしょう。理科年表とWikipediaの波長も一致しています。
問題はb3とb4です。この二つは理科年表とWikipediaで書いてあることが少し違います。
グラフを見るとb3もb4もディップの位置に幅がある感じです。どこをb3(Mg Wikipediaだけにある)、b4(Fe これもWikipeidaだけ)、b4(Mg これは理科年表・Wikipedia共通)とするか悩みます。
幸いこの付近にはE線を始め鉄とかクロムの吸収線がたくさんあるのでそういうのも含めて波長と画像位置の関係を調べた上で上のグラフを作っています。
資料にあるb1~b4の位置を追記したらこうなりました。
暗線に幅があるということは複数の吸収線から構成されているということでしょう。
b4は少なくとも2本の吸収線から構成され左側がMg/b4、右側がFe/b4ということのようです。b3も同じですが、これは左側がb3のようです。
なおb3が理科年表にないというのは何か理由があるのでしょう。例えばほんとうはマグネシウムの吸収線じゃなかったとか。
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上のように波長と画像位置の関係がかなり正確に決めることができたという場合は他に既知の元素の波長に一致する吸収線がないか探します。そういうのが増えると次の同定作業がとても楽になります。
ここでは515nmの左右にナトリウムのスペクトルに相当するところがありますのでその吸収線がないか探してみました。
結果としては
吸収線らしきものはないが輝線みたいなものだったらある
ということになりました。
グラフをもう一度ながめると吸収線の谷間ではなく輝線ではないかと思われるところが何箇所かあります。
上のグラフで矢印で示した四カ所です。他にもまだそう考えてもおかしくなさそうなところがあります。
太陽光は
黒体輻射に似た連続光+太陽大気、地球大気の原子や分子による吸収線
とされていてほんとうに輝線が存在するのか私にはわかりません。タイトルに“?”がついているのはそれが理由です。
おそらく
何かの吸収線の間がたまたまナトリウムの波長と合ったという偶然が二つ重なった
というだけのことだと思いますが....
その後調べてみたらこんなのもありました。
「フラウンホーファー線が輝線に見えるとき - 色分解能による見え方の違い」
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上の記事を書いていて思い出した話。
水星や月にナトリウム(蒸気?)があるという話がありますが、あれは太陽の水星や月の反射光のフラウンホーファー線の中にほのかにナトリウムの輝線が見えることからわかるらしいです。「国立天文台 - 分光宇宙アルバム - 月のスペクトル」 に書いてありました。
ほんとに上の分光分布のピークがナトリウムの輝線だとするとこういう手法で水星や月のナトリウムの輝線は検出できないわけで、たぶん私の記事の内容が間違っているのだと思います。
ちなみにD線が目立つことから太陽にはナトリウム原子がたくさんあるように思ってしまうのですが、実際は他の元素に比べるとナトリウムはずっと希薄なようです。
これと同じことは地上でも体験できます。塩化カルシウムの炎色反応のスペクトルを撮影したらD線が写っていたというようなことがよくあります。
なお「ナトリウムランプのスペクトルの詳細 - 改良版DVD簡易分光器」 にあるように特定の条件ではナトリウムの吸収線と輝線が同時に見えるということはあります。
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