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2016年7月 4日 (月)

ゼーマン効果を利用した太陽磁場測定はアマチュアにできるか?

バーナード星の動いている様子を撮影した写真をときどき見かけるのですが、そのとき思うのは“もうちょっとがんばれば年周視差が検出できるのに”ということです。

年周視差は“おおぜいの天文学者が何百年も苦心惨憺した上検出した”というようなトーンで書いてあるものが多いのでアマチュアとは無縁のものと思っている方が多いようです。しかしバーナード星に限れば(そして周囲の恒星との相対位置の変化を調べる手法であれば、バーナード星の固有運動が北向きということも幸いして)年周視差を検出することは決して不可能なことではありません(バーナード星の年周視差が検出できた!?

もっとも派手な動きで教科書的には年周視差よりずっと検出が容易なはずの年周光行差の方がアマチュア的には(周囲の恒星との相対位置を調べるという手法が使えないので)難しかったりするのですが(じつは年周視差より難しそうな年周光行差の観測

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なぜこんなことを最初に書いたのかというと太陽磁場測定についてもアマチュアには無縁なものと思われている方が多いと思ったからです(この種の話としてもう一つ吸収線のドップラーシフトを利用した太陽の自転速度の測定というのもあるので、これについてもそのうちもう一度書きたいと思います)

太陽磁場測定と言っても“レベル”というものがあるわけですが、

  黒点の磁場の強さが周囲と違うか調べる

程度だったら簡易分光器でもぜったいできないということはないような気がしてきました(もちろん簡易分光器とは言っても対物レンズを使うとかその他必要な対応は行うという前提です)

まず太陽磁場によるゼーマン効果によって吸収線(フラウンホーファー線)が実際にどの程度変化するものか調べてみます。これは実際に撮影された画像を見るのがいちばん簡単で確実でしょう。


図1 ゼーマン効果によるスペクトル線の分裂・偏光
「JAXA/国立天文台 提供」
国立天文台ひので科学プロジェクト
   - 第6回機構長プレス懇談会でのCLASP講演 実施報告「光を測る 観測ロケット実験CLASP―太陽からの微弱な偏光を捉えろ!―」」より

この図を見ると黒点のあたりでゼーマン効果によって吸収線が分裂し太くなって見える様子がわかります(中央の黒くなっているのは単に黒点が写っているだけでしょう。その上下で吸収線の幅が微妙に変化しているところが磁場によるゼーマン効果の影響と思われます。なお右側の円偏光の方は磁場の向きを調べるために使います)

この図が掲載されていた記事には具体的な波長が書いてないのですが、これは別の資料(JAXA宇宙科学研究所 - 清水敏文 - 太陽観測衛星「ひので」)からわかります。

左側の吸収線が630.15nm、右側が630.25nmのようです(ひょっとしたら逆かもしれませんが、それはここでは気にすることはないでしょう)

つまり0.1nm離れた吸収線を撮影したとき上くらいの感じで写るか、というのが最初の関門です。


資料はJAXAのものの方がわかりやすいのですが、引用の条件がわからなかったので今回は国立天文台の資料をつかわせていただきました。

それからゼーマン効果というと条件反射的にナトリウムのD線が思い浮かぶのですが、太陽磁場の測定では鉄の吸収線が使われるようです。上の二つの吸収線も鉄のものです。

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これまで簡易分光器で撮影したフラウンホーファー線の画像から0.1nmくらい離れた吸収線がどう写るか調べてみました。

Fraunhofer_imgp3799008nm_2

b線よりちょっと波長が大きい方に間隔が0.08nmの吸収線がありました。ちょっと“力不足”の感はありますが、簡易分光器の限界に到達した気はまだしませんのでこちらの方はどうにかなりそうです。

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次に対物レンズについて検討します。

現在使っている80mmφ f=700mmのレンズを使うことにします。このレンズで写した太陽の写真があればいいのですが、これまで一枚も写したことがありませんでした。そこで月の写真で代用します。

PENTAX Q7で写しておりセンサーサイズは7.4mmx5.5mmです。そこで焦点面に長さ5mm、間隔0.05mmのスリットがある場合どうなるかを画像に書き込んでみました。

Imgp10321000

このスリットの大きさであればそれなりの写真が撮れそうな黒点も現れることは十分期待できそうです。

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解決しなければならない問題

コリメータについてぜんぜん検討していません。これは前後との位置関係を含めた適切な(つまり製作可能な)設計がなかなかにむずかしいようです。

  参考 つむつむ's ホームページ - 宇宙の観測と技術 - 第10章 分光器

この問題が解決したとして

対物レンズ(望遠鏡)から分光器に至る経路を実際にどう作るが問題です。安定性を考えると相当な強度(剛性)が必要なように思えます。簡易分光器の延長として考えるのが間違っているのかも。
でも作れないことはないような気がするのですが...

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補足

誤解に基づく内容があったので記事を訂正しタイトルも変更しました。


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    簡易分光器とは?
    簡易分光器の実力
      太陽光(フラウンホーファー線)
      蛍光灯
    原理・設計
    製作・材料
      スリット

      回折格子
      構成/構造
    フラウンホーファー線の撮影法
    簡易分光器の性能評価
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    デジカメの分光感度特性
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    分光器の応用
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    スペクトルに関する資料集
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