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2017年3月 4日 (土)

海洋情報部方式で水星の視位置(赤経・赤緯)を求めるには....

先日

  「惑星(金星・火星・木星・土星)の赤経・赤緯・地心距離をExcelで求める(海洋情報部の計算式) 2017年版」

の記事に

  Do you have Mercury Calculation?

というコメントをいただきましたが、ありません、と答えるしかありませんでした。

金星の視位置は求められるのになぜ水星の視位置は求められないのか?

理由は簡単で海洋情報部の資料には金星の視位置を求めるデータはあっても水星のデータはないからです。これは海洋保安庁海洋情報部(昔の水路部)の業務の目的が関係していると思います。

海洋保安庁の目的とするのは航海の安全です。天文情報は天測によって船舶の位置を決定するために使われます。だから提供されている情報は太陽、月、金星~土星、明るい恒星に限られています。すべて天を見上げれば肉眼でもすぐにそれとわかる天体です。

実際に水星を見た方(あるいは見ようとした方)はご存知だと思いますが水星は手強いです。肉眼で見つけるのはなかなか難しく、私は10x50の双眼鏡を使っても見つけられなかったことがあります。さらに水星が観測できる時期、時間帯は極端に限定されていますし、見えたとしても高度は小さく(大気差が強く働くため)高度の正確な観測はできません。つまり天測にはほとんど役に立たないから位置情報もないのでしょう。

この記事とは直接関係ないのですが、太陽との離隔が2度ちょっとしかない水星の写真を撮られた方がいらっしゃるので紹介しておきます。

  クリちゃん 彡 のお月見 - 20170309(木) 水星(外合3日過ぎ)、月齢10.9

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海洋情報部の方式は近似式でそれぞれの天体の位置を求めます。近似式はすべての天体に共通です。そして使用する係数の個数や一組の係数が適用できる期間に違いがあります。

この近似式に使う係数が毎年公開されています。「惑星(金星・火星・木星・土星)の赤経・赤緯・地心距離をExcelで求める(海洋情報部の計算式) 2017年版」の記事にあるExcelシートでは"Sun"、"Moon"、"Planet"の三つのシートに2013年から2017年の間の視位置計算に必要な係数を保存してあります。例えば金星の2013年の視位置計算に使われるのはこういう係数です。一つの係数群は120日間(3ヶ月)程度使える18個の数値からなっています。

Venuscoefjan2017

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そこで水星のデータ(係数)がないのだったら、自前で作ったらいいんじゃなかろうか、という考えが浮かびます。

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これはそんなに難しくないと言えば難しくないです。

まず2017年の一日ごとの水星の視位置を調べます。水星の視位置は国立天文台 暦計算室 暦象年表ですぐに求まります。

次に近似式の係数に適当な値(例えば全部0.0)を設定します。

近似式で水星の視位置を求め実際の視位置とどの程度違うか調べます。例えば毎日の差を自乗したものの計算対象期間での総和を求めます。この値が小さいほど近似式の係数は正確(適切)であるということになります。

あとはそれぞれの係数を大きくしたり小さくしたりして総和がいちばん小さくなるような(できればゼロになるような)係数を見つければいいことになります。

これはとてもたいへんな作業に見えますがExcelの場合Solverを使えばじっと待っていれば終わってしまいます。

当たりをつけるため2017年1月の水星の視赤経を計算するための係数を求めてみました。

Mercurysolverjan2017


この係数を使って視位置を計算し 国立天文台 暦計算室 暦象年表の値と比較してみます。

Mercuryrajan2017

なかなか良い結果が得られています。全体的に誤差は±0.0003度に収まっていますし、両端を除けば±0.0001度です。

恒星の位置計算では0.00001度がどうのこうのみたいなことを書いているので0.0003度というのは大きい数値に見えますが、これは天の赤道付近にある恒星が日周運動で0.06秒間に動く大きさに過ぎません。角度で言えば1.2arcsecです。

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上に書いたように金星をはじめ惑星の位置計算では一組の係数は4ヶ月使えます。一方水星の方は期間が一ヶ月しかありません。じつは最初4ヶ月使える係数を決めようと悪戦苦闘していたのですが思わしい結果が得られなかったからです。

これはExcelのSolverの使い方の問題というのも考えられるのですが、おそらく水星の動きが大きい(変動が激しい)ためだと思います。

金星の今年一年間の動き
Venus2017naoj_2

水星の今年一年間の動き
Venus2017naoj_3


水星は公転周期が短いのでこうなるのはやむを得ないような気がします。

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上のような操作を赤経、赤緯、距離の三つ、全期間(5年間=60ヶ月)について行えば水星の視位置が計算できるようになるわけですが、それにかかる時間を考えると二の足を踏んでしまいます。

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  月の視位置計算で地心距離の計算に誤りが.....
  
このブログの変更履歴・正誤表など

  「太陽の赤経・赤緯・地心距離をExcelで求める(海洋情報部の計算式) 2017年版
  「
月の赤経・赤緯・地心距離をExcelで求める(海洋情報部の計算式) 2017年版
  惑星(金星・火星・木星・土星)の赤経・赤緯・地心距離をExcelで求める(海洋情報部の計算式) 2017年版

  
恒星の位置計算 - ヒッパルコス星表の使い方から大気差の計算式まで

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天文計算」カテゴリの記事

コメント

水星の外合過ぎの記事紹介していただきありがとうございます^^
動きが速いし太陽に近くて見るチャンスも少ないですから、視位置を役立ててくれる方は少ないかしれませんね^^;

撮影できてよかったですね。ふつうだったらとても撮影できるとは思えない離角に感じます。
おっしゃる通り、水星はそうそう見えるものではなにので海洋情報部もデータを提供していないのだと思います。

Good explain

初めまして。

天文計算の情報を得ようと色々検索して、こちらにたどり着きました。
興味深く読まさせていただいています。

私も、天測歴のデータに水、天、海、冥が無いので自分で何とかしたいと思う一人でして、
Excelを使って色々とトライするうちちに、どのように係数を求めているか、分かってきました。

かなりの高精度で係数が求められる方法と自負しているのですが、
よろしければ御連絡いただけませんか。

なお
水星の係数は、4ヶ月使えるものはNが30以上必要なようです。
3ヶ月なら30未満でいけそうです。

コメントありがとうございます m(._.)m

メールを送らせていただきました。
ご確認のほどよろしくお願いいたします。

can we email? and get information? thanks!!

遅くなりましたが、私の方法での計算式が入ったエクセルデータをメールで
送らせていただきました。

海洋情報部の式は、以前は摂動項を拾い出して作っていたものと思われますが、
最近の天測暦にのっているものは、
別の方法で求めたものを日付範囲限定でcos関数で近似しているものと思います。

三角関数での近似ですしcosの計算がcosNθとなっているところから、
フーリエ変換しているのであろうとあたりをつけて試し始めました。

やってみて気づいたのですが、フーリエ変換では結果が複素数となりsinとcosを両方使うか、
偏角を加えるかになってcosNθだけで計算している海洋情報部の式とは合いません。

ここで、ふと、コサイン変換では?と気づいて色々調整...

ウィキペディアの離散コサイン変換の記事を引用すると、
「なお、DFTも偶関数数列に対しては実係数を返す、つまりコサイン成分のみとなるが、
 DCTはy軸で折り返して偶関数化してDFTすることと等価であり、実際にそう計算することが多い。」
ということなので、データを整えて分析ツールアドインのフーリエ変換で何とかなるだろうと..

結果、日付の逆順に並べ、範囲の初日で折返して偶関数とし、
コサイン変換すると結果が海洋情報部の係数とよく合うということが分かりました。

お送りしたデータの月と金星のデータは、その検証用です。
海洋情報部の係数に極めて近い値が出ました。

これが、先のコメントで「かなりの高精度で」と書いた意味です。

コサイン変換した近似式ですので、海洋情報部純正の係数でも真値との誤差は避けられず、
たぶん、その精度は10^-5程度ではないでしょうか。

メールありがとうございました m(._.)m
お送りいただいたExcelのシートを拝見しています。
こちらでご説明いただいたので助かります。
Excelファイルやその結果の取り扱いについて相談させていただきたいので後ほどメールさせていただきます。

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