海上保安庁水路部の略算式 - 月の位置の略算(3) 観測地から見た赤経・赤緯と方位角・高度
これまでの記事で海上保安庁水路部(現在の海洋情報部)の略算式を使って太陽や月の視位置を求めました。太陽も月も地心から見た黄経(と黄緯)を求めそれから赤経・赤緯を算出しました。
太陽の場合は地心から見ても地球上のどの位置からみてもたいした差はありませんが、月の場合は地球から近いので見る場所によってかなり(=月の直径くらいのオーダーで)視位置が変化します。
今回は水路部の略算式というテーマからはちょっと離れますが、地心からみた視位置(視赤経、視赤緯、距離)をもとに特定の場所での月の視位置と方位角・高度を求めてみます。
測心座標を求めるためには月までの距離が必要ですが、これも水路部の略算式にあります。
今回も計算の方法を示すExcelファイルを用意しました。
「ダウンロード Moon_LonLatDist_20170705A.xlsx (57.7K)」
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観測地からの視位置や方位角・高度を求めるためには恒星時が必要になります。視恒星時を使うのが正しいやり方ですが、この記事では平均恒星時を使っています。水路部の略算式は海洋情報部の近似式ほどには精度が高くありません。視恒星時を求める手間をかけてもそれほど精度が向上するわけでもないので平均恒星時にしました(視恒星時と平均恒星時は度で小数点以下3桁目が違ってくるくらいです。
月の地心座標を測心座標(観測地を中心とする座標)に変換するところでは視恒星時を使っても平均恒星時を使ってもそれほど差異は出ません。
一方赤経・赤緯を方位角・高度に変換するときは恒星時の誤差がそのまま方位角・高度の誤差になります。ただアマチュアの観測では方位角・高度に高い精度を要求することはないのがふつうだと思います。
視恒星時を求めるは章動の計算も必要でけっこうたいへんです。となると平均恒星時ですませても別に問題ないような気もしてくるのですが、視恒星時を求めて、それを使う方法については
「観測地から見た月の視位置(赤経・赤緯)を計算する」
にありますので参考にしていただければと思います。海洋情報部の近似式をもとにした記事(Excelファイル)はすべてこの記事にある視恒星時を使う方法を採っています。
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今回も“答え合わせ”は「(NASA)JPL Horizons Web-Interface」を使わせていただきました。
これまで“Observer Location”を“Geocentric”としていましたが、ここに経度、緯度、標高をセットする(“user defined”)と観測地での視位置を求めることができます。
“QUANTITIES”の2は視赤経・視赤緯、4は方位角・高度です。
それから“Table Settings”にある“refraction model”は“airless model”にしておいた方が最初の段階での答え合わせは楽です。
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Excelのシートの“主要”な部分です。
今回は観測地から見た位置ですので、観測地の入力とその座標を求めることが必要です。
左上の部分がこれに相当します。
右上は世界時0時の恒星時を求めるための式の係数です。平均恒星時はこの係数+αで簡単に求めることができます。
下側の結果は左から地心位置(視赤経・視赤緯)、中央が測心(つまり観測地から見た)位置、右側が観測地から見た月の方位角と高度です。
今回は2017年1月1日世界時12時00分から90日毎に4点での結果を調べてみました。
補足
ブラウザによっては上の結果の画像がよく見えないようなので....
なお画像でB列(2列め)に“TT”(地球時)とありますが、ここは“UT”(世界時)で“TT”はY列の方で求めています。上からダウンロードできるExcelファイルは“UT”に修正済です。
地心から見た視位置
観測地(東京)からみた視位置
観測地(東京)での方位角と高度
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参考
長沢工「天体の位置計算」地人書館、1981
長沢工「日の出・日の入りの計算」地人書館、1999
福島登志夫編「天体の位置と運動」日本評論社、2009
長沢工「日食計算の基礎」地人書館、2011
「国立天文台 - 暦計算室 - 暦象年表」
「(NASA)JPL Horizons Web-Interface」
水路部の略算式
「海上保安庁水路部の略算式 - 月の位置の略算(1) 黄経」
「海上保安庁水路部の略算式 - 月の位置の略算(3) 観測地から見た赤経・赤緯と方位角・高度」
「海上保安庁水路部の略算式 - 月の位置の略算(2) 黄緯と赤経・赤緯」
「海上保安庁水路部の略算式 - 太陽位置の略算(1)」
「海上保安庁水路部の略算式 - 太陽位置の略算(2) 黄経」
「海上保安庁水路部の略算式で太陽の視位置(赤経、赤緯)を求める」
「海上保安庁水路部の惑星位置の略算式 - 火星の(日心)黄経・黄緯」
「海上保安庁水路部の惑星位置の略算式 - 火星の視赤経・赤緯」
「日の出・日の入りの計算」の略算式で太陽の黄経を求めてみた」
「理科年表(暦象年表)における太陽の黄経の意味」
「海上保安庁水路部の略算式はいつまで使えるか? - 太陽の黄経を例に」
海洋情報部の近似式
「太陽の赤経・赤緯・地心距離をExcelで求める(海洋情報部の計算式) 2017年版」
「月の赤経・赤緯・地心距離をExcelで求める(海洋情報部の計算式) 2017年版」
「惑星(金星・火星・木星・土星)の赤経・赤緯・地心距離をExcelで求める(海洋情報部の計算式) 2017年版」
海洋情報部の近似式の発展(係数の決定法)
「海洋情報部方式で水星の視位置(赤経・赤緯)を求めるには....」
「水星視位置の海洋情報部近似式の係数の求め方」
天体の位置計算について
「恒星の位置計算 - ヒッパルコス星表の使い方から大気差の計算式まで」
「月の視位置計算で地心距離の計算に誤りが.....」
「このブログの変更履歴・正誤表など」
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