海上保安庁水路部の惑星位置の略算式 - 火星の(日心)黄経・黄緯
(昔の)海上保安庁水路部の略算式で太陽や月の視位置(視赤経、視赤緯)を求めてみたのですが、現在でもじゅうぶん使えることがわかりました。海洋情報部の近似式ほどの精度はありませんが、海洋情報部の近似式のように毎年何度も係数を変えながら計算しなくてはならない面倒臭さはありませんので目的によっては実用的です。
そこでこんどは水路部の略算式で惑星の視位置を求めることをやってみます。水路部の惑星の略算式で直接求まるのは太陽を基準にした黄経・黄緯です。したがってまずこれを地球を基準にした黄経・黄緯に変換し、さらにこれを赤経・赤緯に変換する必要があります。
黄経・黄緯からの赤経・赤緯への変換はすでに太陽と月で行っていますし、太陽中心から地球中心への変換は地球中心から観測地中心への変換と同じことですので手順的には問題なさそうです。
水路部の惑星の略算式は
金星・火星・木星・土星
と
水星・天王星・海王星・冥王星
の二系統がありますが、今回は前者から火星を取り上げ、(日心)黄経・黄緯を求めます。係数が金星より多い火星を最初に取り上げるのは「天体の位置計算」に計算例があり検算が容易だからという理由です。検算であればいつものように「(NASA)JPL Horizons Web-Interface」 を使えばよさそうですが、あとで書くように今回はそれが難しいです。
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この記事は次のExcelファイルをベースにしています。
「ダウンロード PlanetsMars_LonLatDist_20170711A.xlsx (75.4K)」
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最初に係数を入力します。いつもどおり老眼対策で本の上にスマホを載せて入力しました。
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次にExcelで使う計算式を作ります。
今回は月のときよりきめ細かく作ってみました(月位置の略算式の生成部分も作り直しました)
火星位置の略算式は太陽位置の略算式(=地球位置の略算式)より複雑です。
火星は小さい(軽い)ので周囲の影響をうけやすいのでしょう、たぶん。
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「(NASA)JPL Horizons Web-Interface」 からデータを取得しておきます。設定値は次のとおりです。
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結果です。
2017年1月1日から90日おきの計算結果が4つあって、そのあと最後に「天体の位置計算」の計算例と同じ1979年9月15日12時ETの計算結果があります。
C列が今回計算した略算式の結果で、E列が計算例にあった結果です。入力した係数や計算式が正しければとうぜんこの二つはぴったり合います。
G列には「(NASA)JPL Horizons Web-Interface」のデータがありますが、黄経・黄緯がぜんぜん一致していません。
「(NASA)JPL Horizons Web-Interface」 のは「Heliocentric ecliptic lon. & lat.」なのですが、これは J2000での座標です。一方水路部の略算式で得られる黄経・黄緯は「瞬時の平均春分点」に対する座標なので一致するわけがありません。 「(NASA)JPL Horizons Web-Interface」 に瞬時の平均春分点あるいは平均春分点に対する座標がないか“Geocentric”を“@sun”(Sun (body center))にしたりして探したのですがなさそうです。
地軸の傾きというのは太陽系全体で見たときには地球の個別の問題であって、他の惑星の位置を記述するとき地軸の傾きを考慮する方がおかしいということなのでしょう。
ただこのデータの中で距離(Range)は座標系に依存する量ではないのでよく一致しています。
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水路部は瞬時の平均春分点にもとづく座標、JPL HorizonsはJ2000座標系と座標が違うので結果が一致するわけがないのですが、J2000.0座標系は「J2000.0における平均赤道と平均春分点を基準にした座標系」と定義されています(「天文計算のための天文用語集 - 1」)
となると時刻がJ2000.0であれば同じ結果(座標)になるはずです。以前
「J2000.0は厳密にはJD2451545.0TDBと定義される」ということを書いた(「時刻系の変換」)のですが、今回の記事の程度であれば
J2000.0 = 2000年1月1日12時TT
として何の問題もないはずです。
実際に計算してみたらこうなりました。
1979年9月15日の結果に比べるとずっと“一致度”が上がっています。でも太陽や月に比べるとちょっと物足りません。
長沢工「天体の位置計算」地人書館、1981 での結果の扱い方を見ると略算式で得られる位置は“真の位置”(幾何学的位置)で惑星光行差は考慮されていません。
一方「(NASA)JPL Horizons Web-Interface」では惑星光行差が考慮されています。値の差はこれが原因のようです。
惑星光行差は略算式の結果から視位置(視赤経、視赤緯)を求めるとき考慮しますので、視位置が出た段階でそれを比較してみたいと思います。
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参考
長沢工「天体の位置計算」地人書館、1981
長沢工「日の出・日の入りの計算」地人書館、1999
福島登志夫編「天体の位置と運動」日本評論社、2009
長沢工「日食計算の基礎」地人書館、2011
「国立天文台 - 暦計算室 - 暦象年表」
「(NASA)JPL Horizons Web-Interface」
水路部の略算式
「海上保安庁水路部の惑星位置の略算式 - 火星の(日心)黄経・黄緯」
「海上保安庁水路部の惑星位置の略算式 - 火星の視赤経・赤緯」
「海上保安庁水路部の略算式 - 月の位置の略算(1) 黄経」
「海上保安庁水路部の略算式 - 月の位置の略算(2) 黄緯と赤経・赤緯」
「海上保安庁水路部の略算式 - 月の位置の略算(3) 観測地から見た赤経・赤緯と方位角・高度」
「海上保安庁水路部の略算式で求めた月の位置を図にしてみた」
「海上保安庁水路部の略算式 - 太陽位置の略算(1)」
「海上保安庁水路部の略算式 - 太陽位置の略算(2) 黄経」
「海上保安庁水路部の略算式で太陽の視位置(赤経、赤緯)を求める」
「日の出・日の入りの計算」の略算式で太陽の黄経を求めてみた」
「理科年表(暦象年表)における太陽の黄経の意味」
「海上保安庁水路部の略算式はいつまで使えるか? - 太陽の黄経を例に」
海洋情報部の近似式
「太陽の赤経・赤緯・地心距離をExcelで求める(海洋情報部の計算式) 2017年版」
「月の赤経・赤緯・地心距離をExcelで求める(海洋情報部の計算式) 2017年版」
「惑星(金星・火星・木星・土星)の赤経・赤緯・地心距離をExcelで求める(海洋情報部の計算式) 2017年版」
海洋情報部の近似式の発展(係数の決定法)
「海洋情報部方式で水星の視位置(赤経・赤緯)を求めるには....」
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天体の位置計算について
「恒星の位置計算 - ヒッパルコス星表の使い方から大気差の計算式まで」
「天文計算のための天文用語集 - 1」
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